唯奈大迷惑⑬ 相棒が喋った日――魔法少女(自称)と蒼牙2000
常陸太田市。
いつもと変わらない、山と畑と、ちょっと風の強い午後。
唯奈は鍬を持ちながら、首をかしげていた。
「……なんかよ、最近ちっと変だっぺ」
理由は分からない。
だが、確実におかしい。
畑の石の配置が一瞬で分かったり、
耕運機の調子が「音」で分かったり、
おまけにプロ野球チップスの袋を持つと、
「これは要らねぇ」と直感が働く。
「これ、もしや……魔法じゃねぇか?」
その瞬間だった。
――ゴゴゴゴゴ……
地鳴りのような低音と共に、
見覚えのあるシルエットが畑道を走ってくる。
SUVのようなフォルム。
だが、どう見てもトラクター。
「……蒼牙?」
そして運転席から、涼しい顔のすみれコーチ。
「よっ」
「コーチ!?
まさか……蒼牙でここまで来たんか!?」
「そうよ」
あまりにも軽い。
助手席には、
白装束に工具ベルトという世界で一番怪しい組み合わせの稲生明日香。
「道中、非常に良好でした」
良好の基準が怖い。
唯奈が恐る恐る蒼牙に近づき、
運転席に乗り込んだ瞬間――
「――起動完了。
私は蒼牙2000です。
唯奈さん、こんにちは。
本日も素敵な作業を行いましょう」
「……は?」
唯奈、完全フリーズ。
「しゃ、しゃべった!?
蒼牙がしゃべったっぺ!?」
「はい。
正確には“発声機能を有する輸送・農業支援車両”です」
「誰がそんなもん頼んだ!?」
すみれコーチが悪びれもせず言う。
「ちょうど良かったのよ。
新兵器“ドリームカー”のコンピューター、
まだ試作段階だけど、
載せるなら蒼牙が一番だと思って」
「一番って理由なんだっぺ!?」
「丈夫そうだったから」
理由が雑すぎる。
蒼牙2000は続ける。
「私はすみれコーチ様と、
稲生明日香様により新たな命を吹き込まれました。
エンジンはSUV仕様。
公道走行・農作業、どちらも対応可能です」
「公道最速トラクターってことか!?」
「理論上は」
またその言葉だ。
試しに唯奈が畑作業を始めると、
蒼牙2000は終始、丁寧語で喋り続ける。
「現在の土壌状態は良好です」
「その操作、とてもお上手です」
「唯奈さんは本当に優秀です」
「うるせぇ!!
静かにしろっぺ!!」
だが作業効率は――
以前とほぼ変わらない。
褒めてくるだけの機械である。
そんな中、蒼牙2000が突然言った。
「なお、唯奈さん。
あなたにはスピリチュアルな変化が確認されています」
「……は?」
「透視機能搭載試作品5号の影響により、
潜在能力が開花した可能性があります」
「えっ……
オラ、魔法使いなんか!?」
「はい。
魔法少女・唯奈の誕生です」
「どこが少女だっぺ!!」
そして、ふと気づく。
「……なぁ、蒼牙。
2000ってなんだべ?」
「……申し訳ありません。
私にも分かりません」
すみれコーチと明日香を見る。
「コーチ、2000って何だっぺ?」
「知らない」
「明日香さんは?」
「ノリです」
全員知らない。
「まぁいいか」で済まされる世界。
しばらくして、唯奈が言った。
「……ところでよ。
コーチも明日香さんも、
蒼牙2000で来たっぺ?」
「ええ」
「……帰りは?」
沈黙。
すみれコーチと明日香、顔を見合わせる。
「あっ……」
「……考えてませんでした」
唯奈、深く息を吸う。
「……なぁ蒼牙」
「はい」
「今日はもう一仕事増えそうだっぺ」
「承知しました。
安全第一で参りましょう」
夕暮れの畑に、
丁寧語のトラクターと、
半魔法少女(自称)のため息が響いていた。
――なお、
誰もまだ責任は取っていない。




