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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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437/453

唯奈大迷惑⑨  透視禁止の浜松――袋の中は見ちゃダメだっぺ!

唯奈は、助手席でシートベルトを握りしめていた。

 背中が、もう「嫌な予感」に汗をかいている。


 ハンドルを握るすみれコーチの運転は、相変わらず“丁寧さ”という概念をどこかに置き忘れている。水平対向っぽい音が「ボボボ…」と腹に響いて、車体は低く、落ち着きなく、妙に安定しているのがなお怖い。


「……どごまで行ぐ気だっぺ? まさが、また太田の工場じゃねぇよな?」

「浜松。」

「はぁ!? はままつ!? なんで!?」


 すみれコーチは前を見たまま、いつもの“説明しない顔”で言った。

「実戦環境の検証。」

「実戦環境って何だっぺよ! 東名で実戦すんなぁ!」


 車は東名高速を西へ、西へ。

 サービスエリアの「静岡おでん」の文字が流れた瞬間、唯奈は悟った。これはただの遠足じゃない。逃げ場のない実験だ。


 やがて到着したのは、静岡県浜松市。

 遠州の風が吹く、やたらと広い街だ。楽器の街。工業の街。カワイやらスズキやら、世界に鳴り物とエンジン音を輸出してるタイプの都市。名物は餃子、うなぎ、三ヶ日みかん、そして大凧――なぜかデカいものが好きな気配がある。


 そしてその中心に、巨大なショッピングモールが鎮座していた。“なんでも揃う”感が暴力的なやつだ。


「……ここで何すんだっぺ」

「人類学史上類をみない壮大な実験。」

「言い方だけデケぇんだよ!!」


 すみれコーチが言った瞬間、後ろから不気味に明るい声がした。


「唯奈さん、お待ちしていました」

 振り向くと、稲生明日香がいた。巫女兼エンジニア。笑顔なのに、どこか神棚の圧がある。横には諏訪精巧機電研究所の中村玲もいる。真面目な顔で、すでに“測定する人の目”だ。


「今回は……ついに、透視スキル実装の最終検証です」

「や、やめろっぺ。オラの人生、最近“最終検証”多すぎんだよ」

「ご安心ください。試作品6号は、理論上――」

「理論上は毎回大丈夫だっぺな!」


 玲が口を開きかけた。

「被験者――」

「今『被験者』言ったっぺ?」

「いえ……言ってません」

 言い切る目が真面目すぎて、逆に怖い。


 明日香は、売り場の一角へ唯奈を連れていく。

 そこには大量の袋菓子が並んでいた。プロ野球チップス。

 おまけのカードが付いてくる、あれだ。


「このモールでは昔、『プロ野球チップス切り裂き事件』が発生したことがあるそうです」

「はぁ!? 何それ、こえぇ話すんな!」

「だからこそ……ここで“切らずに中身を知る”ことには、歴史的意義があります」

「意義とか言えば許されると思うなっぺ!」


 明日香が、掌を合わせた。

「おまけの中身が知りたい」

「神頼みの方向性おかしいだろ!!」


 そして唯奈の背中に、試作品6号が装着された。

 軽い……軽いが、軽いほど怖い。こういうのは大体、突然暴れる。


「任務です」

「任務ぅ?」

「この売り場から――球界の盟主を自称する在京球団の、ベテラン・イケメン捕手のカードを、透視で当ててください」

「……プロ野球、オラまったく知らねぇっぺ」

「大丈夫です。マークが見えます」

「それしか頼りねぇじゃねぇか!」


 唯奈は棚の前に立ち、袋を手に取った。

 明日香が顔を近づける。


「何が見えます?」

「……青い……Dのマークが……」

「要らない!」

 明日香は即座に棚に戻した。速い。祓うみたいに戻す。


「次。何が見えます?」

「……Mのマークで……1番が……」

「キョウタ!」

 明日香の声が跳ねた。

「これは美月さんにあげましょう。はい、カゴ!」

「え、今の誰だっぺ!?」


 唯奈は混乱しながら次の袋を握る。


「……Tのマークの……8番……」

「サトテルは彩香さん!」

 明日香は勝手に断定し、カゴへ。


「……黄色でHの……5番……」

 その瞬間だった。明日香の目がスッと冷えた。

「汚らわしい」

「ひでぇ!」

 明日香は祓うように棚へ戻した。まるで邪気払い。


 唯奈は心の中で叫んだ。

なんでカードでここまで宗教戦争みたいになってんだっぺ!?


 袋を取っては覗き、取っては戻し、取っては“要らない”を食らう。

 唯奈の透視作業は、完全に「選別係」だった。


「……Gの……22……」

「……出ませんね」玲が真顔で言った。

「出ねぇじゃねぇ! そもそもGの22が誰だっぺよ!」

「ベテラン・イケメン捕手です」

「情報が薄い!」


 やがて唯奈の動きがモール内で目立ち始めた。

 袋を手に取っては凝視し、何も買わずに棚へ戻す。

 買うのはたまに、謎に確定された袋だけ。

 明日香の“祓い戻し”がついてくる。


 ついに警備員が近づいてきた。

「お客様、少々よろしいでしょうか」

 笑顔なのに圧が強い。プロだ。


「えっ、オラ、なんも悪いことしてねぇっぺ!」

「では、何をされているのですか?」

「えーっと……透視です」

 唯奈は正直に言ってしまった。


 警備員の笑顔が、一段階だけ真顔に近づいた。

「……透視?」

「この人が急にやれって……」

 唯奈は明日香を指差す。


 明日香は涼しい顔で一礼。

「倫理的に、切り裂きはいたしません」

「そこじゃねぇ!」


 結局、モール側で謎のルールが生まれた。

 “おまけの中身を知りたくても透視は禁止”

 どこにも書いてないのに、なぜか即日発効。


 玲が小声で言った。

「……世の中には、知らないほうが幸せなこともあります」

「今それ言う!?」


 結局、Gの22は出なかった。

 明日香は肩を落としたが、次の瞬間、顔を上げて言った。


「今日の収穫は“祓い”の最適化です」

「収穫って言うな! こっちはイモの選別の途中で拉致られた気分だっぺ!」


 すみれコーチが腕を組む。

「データは取れた。帰ろう。」

「帰ろうじゃねぇ! オラの平穏返せっぺ!」


 駐車場へ向かう道すがら、唯奈は最後に棚を振り返った。

 静かに並ぶプロ野球チップス。

 その奥に、見えないルールの看板が立った気がした。


 ――透視禁止。袋の中は、夢のままに。


 車に乗せられながら唯奈は呟いた。

「……ダメだこりゃ……じゃねぇ。コロすきかぁ~!」


 すみれコーチは当然のようにアクセルを踏んだ。

 水平対向っぽい音が再び腹に響く。


「はいはい、次はもっと安全にやるから」

「それ毎回言ってっぺ!!」


 浜松の風は、やけに爽やかだった。

 この日、モールには新たな伝説が増えた。


 ――切り裂かれなかった。

 だが、唯奈の心が少し切り裂かれた。

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