唯奈大迷惑⑦ 巫女、配線を見る――なおオラの未来も見えたらしい
爆発は、なくなった。
これだけ聞くと、すみれコーチ率いる開発チームは
ついに成長したかのように思えるが――それは違う。
爆発しなくなっただけで、
変なことは相変わらず起きていた。
群馬県太田市、すみれコーチの実家工場。
「えー……爆発はゼロです」
諏訪精巧機電研究所の中村玲が、冷静に報告する。
「ですが、耕運機、洗濯機、古い扇風機の振動音に反応します」
「……振動に弱いな」
すみれコーチは腕を組んだ。
「つまり、唯奈の畑では――」
「今も腰が勝手に揺れます」
その頃、常陸太田市。
「……また来たっぺ」
唯奈は畑で、試作品五号機を装着していた。
耕運機が**ドドドドド……**と回り出した瞬間。
「やめろっぺ!
今日は踊らねぇ日だっぺ!!」
腰が、意思を持ったように左右に振れる。
「くっ……制御しろオラの身体ぃぃ!!」
近所のおばちゃんはもう慣れたもので、
「唯奈ぁ、今日はサンバかぁ?
昨日は盆踊りだったなぁ」
「ちげぇっぺ!!
これ兵器だっぺよ!!」
事態を重く見たすみれコーチは、
新たな助っ人を呼んだ。
「自動車工学と……スピリチュアル?」
中村玲が首を傾げる。
現れたのは、白衣の上に白衣を重ねたような人物。
「三河の蒼狐、稲生明日香です」
巫女であり、理系。
豊川市という土地柄か、
エンジン音と霊的波長を同時に聞き分ける変わり者だった。
「この装置、音じゃなくて“気”に反応してますね」
「……気?」
「耕運機、長年使われてますよね?」
「そりゃあ……」
「“働いてきた念”が残ってます」
工場内が静まり返った。
「つまり……」
明日香は真顔で言った。
「農機具の怨念です」
「……技術でどうにかなる話かなそれ」
すみれコーチが遠い目をする。
しかし明日香は続けた。
「ただし、振動波形を見ると――
エンジン回転数と制御信号が共鳴してます」
中村玲の目が光った。
「……スピリチュアルを翻訳すると、工学になるんですね」
「巫女なので」
なぜか納得した。
さらに明日香は、装置をじっと見つめた。
「……見えます」
「何が?」
「次に唯奈が踊るタイミング」
「やめてくれっぺ!!」
「三秒後です」
ドドド……
「来たっぺぇぇ!!」
「やっぱり!」
技術者たちは一斉にメモを取る。
「透視、使えますね」
「実装しましょう」
「待て待て待て!!」
唯奈の悲鳴を無視して、
透視スキル実装計画が始まった。
数週間後。
研究開発は順調に進み、
唯奈には――
「……平和な日々が来たっぺ」
畑仕事もスムーズ。
装置は軽く、踊らない。
「これなら普通に使えるな」
唯奈は満足げだった。
その時。
近所の古い耕運機が、
少し離れた畑でエンジンをかけた。
ドロロロロ……
装置が、ピクッと反応。
「……まさか」
腰が、わずかに揺れる。
「おい……」
クイッ
「やめろっぺ!
今、平和回だったっぺよ!!」
遠くで明日香が呟く。
「見えました。
“改良は、まだ続く”って」
すみれコーチはため息をついた。
「……唯奈、もうしばらく頼むね」
「オラ、いつまで実験台なんだっぺ……」
こうして、
爆発は消え、踊りは残り、
透視だけが正確になるという
謎の進化を遂げたヘンテコ兵器。
唯奈の大迷惑は、
静かに、確実に、次の段階へ進んでいた。




