唯奈大迷惑⑥ 正式採用前の最終検証――畑が戦場で何が悪ぃっぺよ
群馬県太田市。
すみれコーチの実家町工場では、今日も「懲りない大人たち」が真顔で集まっていた。
「看護学生・美紀さんの意見で装着圧を分散しました。可動域も広げています」
諏訪精巧機電研究所の若手技術者・中村玲が淡々と説明する。
「理論上は安全。今回は“日常環境での検証”が必要です」
すみれコーチは腕を組み、うなずいた。
「つまり――畑だね」
「はい。畑です」
その決定に、誰も異議を唱えなかった。
同時刻。
茨城県常陸太田市、山口家の山奥。
唯奈は野良着姿で、ジャガイモの選別をしていた。
「今年の芋ぁ出来ぇいいなぁ。雨もほどほどでよ、上出来だっぺ」
その時だった。
ドロロロ……ドロロロ……
低く粘るようなエンジン音。
回転を上げると、左右から押されるような独特の鼓動。
「……来たっぺ」
次の瞬間、砂利道を蹴散らしながら、
青っぽい車体で、やたら四輪を主張する車が畑に突っ込んできた。
「相変わらず、音で分かる車だな……」
唯奈が呟いた瞬間、急制動。
「やっほー唯奈! 元気?」
「元気だったのに今終わったっぺ!!」
ドアが開き、すみれコーチと中村玲、
そして見慣れた機材ケース。
「今日はね、正式採用前の最終チェック」
「その言葉で良い予感したこと一回もねぇっぺよ!」
畑のど真ん中で、試作品五号機を装着される唯奈。
「……あれ?」
肩を回す。
「軽ぇっぺ。なんか、ちゃんとしてる」
「装着感は重点的に改善しました」
鍬を持ち、芋掘り開始。
サクッ、サクッ。
「おぉ……腰、楽だっぺ。
これ、マジで野良仕事向きだぞ」
トラクターに乗っても違和感なし。
「視界もいいし、変な反動もねぇ」
すみれコーチと玲は、思わず目を見合わせる。
「……これは」
「……成功?」
その瞬間だった。
耕運機のスイッチが入る。
ズズズン……ズズズン……
低周波振動。
唯奈の腰が、ピクッと跳ねた。
「……あ?」
次の瞬間。
カッ、カッ、カッ、カッ――!
「ちょっ、待て! 止まんねぇ!!」
唯奈の体が勝手にリズムを刻み始める。
腰が左右に振れ、腕が波を打ち、
完全に――農地ディスコ状態。
「共鳴してます!」
「周波数が……合っちゃいましたね……!」
技術者たちが真顔でメモを取る中、
畑の端から、強烈な声が飛んできた。
「おめぇ何やってんだぁぁぁ!!」
現れたのは、近所の農家のおばちゃん。
「唯奈ぁぁ! 芋掘りに来たと思ったら腰振ってんじゃねぇっぺ!!」
「ちげぇっぺ!! 勝手に動いてんだっぺ!!」
おばちゃん、腕を組んでじっと見る。
「ほぉ……」
数秒後、満足げに一言。
「やっぱ戦隊ヒロインは違ぇな。
おめぇ、踊りも様になってんぞ。
うちの若ぇ衆よりキレてっぺ」
「褒めんなっつってんだっぺ!!」
装置停止。
畑に静けさが戻る。
「……農作業用途としては、かなり有効ですね」
「ええ。耕運機使用時を除けば……」
唯奈は汗を拭いながら言った。
「ちゃんと使えば、マジで助かるっぺ。
でもな……農機の近くは禁止な。
オラ、これ以上踊りたくねぇ」
すみれコーチはうなずく。
「結論――」
「“野良仕事には使える”ですね」
玲は真剣に書き込んだ。
《正式判定:農業用途・条件付き可》
唯奈は空を見上げて、ため息をつく。
「オラ、戦隊ヒロインだっぺよな……
なんで畑で実験台なんだっぺ……」
その横で、
あの独特なエンジン音が、また低く唸っていた。
次はどこで試すのか。
嫌な予感だけは、よく当たる唯奈だった。




