唯奈大迷惑⑤ 安全確認ヨシ!――なおオラは未確認
――人は、成功体験を得ると、だいたい調子に乗る。
群馬県太田市と長野県諏訪市をまたいだ、
すみれコーチと諏訪精巧機電研究所の共同開発チームは、
ついに“やった感”を手に入れていた。
「試作品第5号機……」
中村玲は静かに言った。
「今回は、暴発なしです」
技術者たちが一斉にうなずく。
なぜなら――
「中村玲、装着完了。問題なし」
若手技術者の中村玲が、実際に装着して動き回った結果、
何も起きなかったからだ。
爆発なし。
煙なし。
金ダライも落ちてこない。
「……これは」
すみれコーチが腕を組む。
「いけるな」
誰もが思った。
今度こそ、唯奈は助かる。
その頃、新橋のヒロ室。
ソファにだらっと座る唯奈、陽菜、美紀。
同い年トリオは、完全にオフモードだった。
「新橋ってさぁ、人多すぎだべ」
「わかります~。迷子になりそうです」
「私、駅の出口で毎回違う世界に出ます」
「常陸太田なら迷子になんねぇぞ」
「一本道で畑しかないですもんね~」
「……否定しづらい」
そこへ。
ガチャ。
「よっ」
嫌な声。
すみれコーチの背後に、
見慣れた銀色のケースを抱えた中村玲と技術者たち。
唯奈は反射的に立ち上がった。
「……嫌な予感しかしねぇ」
「え~?それ何ですか~?」
陽菜が目を輝かせる。
「新装備ですか?」
美紀も興味津々。
「……あんまり良いモンじゃねぇっぺよ」
唯奈は本音を漏らした。
中村玲が一歩前に出る。
「今回も、被験の……いえ、唯奈さんのご意見を取り入れた改良版です」
「また被験者って言ったっぺ?」
「い、言ってません!」
「言った」
「言ってないです!」
「言ったって顔してる」
「……」
場が少しだけ和んだ。
「今回は私も初めて装着しましたし、大丈夫でした」
玲が胸を張る。
「初めて着けたって、
それ今まで誰も着けてねぇってことだっぺ?」
「……」
正論だった。
装着。
スイッチオン。
……何も起きない。
走る。
跳ぶ。
止まる。
「……おお」
唯奈の表情が変わる。
「これ、いいな」
一同、息をのむ。
「軽いし、動きやすい。
ちゃんと戦隊ヒロイン用だ」
「成功ですね!」
玲が嬉しそうに言う。
「陽菜も着けてみ?」
唯奈が振り返る。
「えっ、私ですか~?」
陽菜はきょとん。
すみれコーチが慌てて止めた。
「陽菜が着けて怪我したら困るでしょ」
その瞬間。
「……オラなら怪我しても良いって言うんかぁ~」
唯奈の声が、低く響いた。
「いや、そういう意味じゃ……」
「オラは怪我係か?」
「頑丈そうだから……」
「健康優良児なだけだっぺよ!!」
空気が一瞬、凍る。
「……じゃあ」
美紀が静かに手を挙げた。
「私がやってみます」
「美紀、怪我しないでね」
すみれコーチが即答。
「……」
唯奈は無言。
「……オラの時、そんな心配なかったっぺよ?」
「唯奈は……」
すみれコーチは少し考えて、
「大丈夫かなって」
「雑!!!」
美紀が装着。
問題なし。
「これ、良いですね~」
「どの辺が?」
玲が即座に食いつく。
「姿勢保持が楽です。
長時間着けても疲労が少なそう」
「なるほど……!」
「あと、看護学生目線だと――」
美紀の話を、
中村玲はメモを取りながら真剣に聞いていた。
その横で。
「……オラ、何だったんだっぺ」
唯奈は、天井を見上げた。
成功したのに、
一番雑に扱われたのは唯奈だった。
――唯奈大迷惑シリーズ、
成功すればするほど、唯奈が割を食う法則は続く。




