唯奈大迷惑③ 「三号機、わりとマシ。でも最後は白煙」
試作品第2号の大爆死から一週間。
群馬県太田市、すみれコーチの実家町工場の奥では、懲りない大人たちが再び集まっていた。
「……理論上は、今回は行けます」
諏訪市のパートナー企業――正式名称は諏訪精巧機電研究所。
そこの若手女性技術者・中村玲は、真面目な顔で設計図を指していた。
「唯奈さんの意見、全部反映しました。重量配分、可動域、熱処理……」
「よし。今回は爆発しない」
すみれコーチは力強くうなずいた。
この時点で、誰も「爆発しない」という言葉を信用していなかった。
一方その頃、茨城県常陸太田市。
山奥の豪農・唯奈の実家では、野良着姿の唯奈がトラクターに乗っていた。
「いやぁ、今日も天気いがっぺなぁ」
畑を見渡しながら、のんびりと独り言を言った瞬間――
キキーッ!!
砂利を盛大に蹴散らし、一台の車が横付けされる。
「よっ!」
窓から顔を出したのは、すみれコーチだった。
「……あ?」
唯奈はトラクターを止めた。
「はい、拉致」
「は!? ちょ、今ジャガイモ――」
説明はない。
唯奈は野良着のまま助手席に押し込まれ、車は急発進した。
「またかよ! 今日は農協の集まりがぁ――」
山道を猛スピードで下り、北関東道を爆走。
二時間半後、群馬県太田市の町工場に到着した時、唯奈は完全に悟った。
「あー……これ、また変な装置だな?」
試作品第3号は、前回までよりも明らかに“普通”だった。
ゴテゴテした配線も減り、見た目はかなり洗練されている。
「今回は割とマシです」
中村玲が、少し誇らしげに言った。
「お、軽いな。前のは背負った瞬間に『死ぬ』って思ったっぺ」
「今回は非力な人でも使える想定です」
「ほぉ……じゃあ、陽菜でも行けっか?」
「理論上は」
またしても“理論上”という不穏な単語が出た。
唯奈は装置を装着され、スイッチを入れられる。
……ジジ……
……カシュ……
「お?」
唯奈は肩を回した。
「……あれ? 今回、普通じゃね?」
「でしょ?」
すみれコーチがドヤ顔をする。
動く。
走れる。
跳べる。
誰もが「成功」を確信しかけた、その瞬間――
……プスッ。
小さな音。
次の瞬間、
シューーーーーーーーッ!!
白い煙が、静かに、もくもくと立ち上った。
爆発はない。
音もない。
ただ、工場が一瞬で白くなった。
誰も動かない。
煙の中から、唯奈の声だけが聞こえた。
「……おーい……見えねぇ……」
やがて煙が晴れ、
そこには煤だらけで立ち尽くす唯奈がいた。
「……」
「……」
「……ダメだこりゃ」
普通ならここで終わる。
だが、唯奈は違った。
「でもよ」
煤を払いつつ、真顔で言う。
「前より全然いい。
重さもマシだし、可動域も広い」
中村玲が身を乗り出す。
「具体的には?」
「背中の重心、あと3センチ下げた方がいい。
それと、装着解除はもっと簡単にしねぇと、
陽菜みたいな非力な子は詰む」
「……なるほど」
「あと熱。夏場はマジで死ぬ」
玲は必死にメモを取った。
「ユーザー目線……いえ、現場目線ですね」
「当たり前だっぺ。
机の上で戦ってねぇからな」
すみれコーチは腕を組み、うなずいた。
「……やっぱり、唯奈は実験台として優秀だ」
「褒めてねぇだろそれ」
白煙の残る工場で、
ヘンテコ兵器開発は、今日も一歩だけ前に進んだ。
そして唯奈は、
また野良着のまま、何も聞かされずに車に乗せられた。
「次は第四号とか言わねぇだろうな?」
「さぁ?」
「ダメだこりゃ……」
――唯奈大迷惑シリーズ、まだまだ続く。




