唯奈大迷惑 最後は煙と「ダメだこりゃ」
「……いや、やっぱおかしいっぺ」
唯奈は、腰に巻き付けられた謎のヘンテコ装置を見下ろしていた。
金属とゴムとコードが混在し、どこか家電量販店のワゴンセール感がある。
「コーチ、これ何なん?」
「多目的補助ユニット」
「“多目的”って言葉、ろくなことねぇんだっぺ」
すみれコーチはヘルメットを被り、距離を取りながら頷いた。
「大丈夫。理論上は」
その背後では、諏訪市のパートナー企業の開発担当者が
ノートPCを抱えて落ち着かない様子で立っている。
「電圧、正常……たぶん」
「“たぶん”!?
たぶんって何だっぺ!?」
唯奈は装置を引っ張ろうとするが、がっちり固定されている。
「外れねぇんだけど!?」
「安全装置」
「安全装置のくせに外れねぇって、意味分かんねぇっぺよ!」
その時だった。
ウィィィ……キュルルル……
装置から、明らかに聞いてはいけない音が鳴り始める。
「……今の音、聞いたっぺ?」
「うん」
「やっぱ聞こえたよな!?
今の音、完全に“失敗する前兆”だっぺ!」
さらに音は続く。
ピピッ、ピピピピピ……
「ちょ、待てコラ!」
唯奈が叫ぶ。
「なぁ!
私、嫌な予感しかしねぇんだけど!
これ絶対ダメなやつだっぺ!?
止めっぺ!
今すぐ止めっぺよぉぉ!!」
すみれコーチは一瞬、操作パネルに手を伸ばしかけ――
「……データ、取りたい」
次の瞬間。
ドンッ!!
爆発、と言っても殺傷力はない。
だが、音と煙と勢いだけは一級品だった。
白い煙が工場内に充満し、
天井からポロポロと埃が落ちる。
「うわっ!」
「きゃっ!」
「想定外!
想定外です!」
パートナー企業の開発担当者が慌ててPCを抱えたまま後退する。
「電流値が……!」
「いやその前に爆発してます!」
「あわわわ……!」
すみれコーチも珍しく声を上げた。
「煙!
煙が多い!」
「換気!
換気ぃ!」
数秒後。
煙の中から、
真っ黒になった唯奈が、ゆっくりと姿を現す。
前髪はチリチリ。
顔には煤。
装置は半分、焦げている。
「……」
一同、息を呑む。
「……唯奈さん!?
大丈夫ですか!?」
開発担当者が駆け寄る。
唯奈は無言で自分の腕を見る。
次に足。
軽くジャンプ。
「……あれ?」
すみれが首を傾げる。
「身体データ、正常……?」
その瞬間。
「装置は!?」
開発担当者が真っ先に装置を覗き込む。
「基盤が……
あ、いや、ここは無事かも……」
「バッテリーは!?」
「バッテリーは……溶けてますね」
二人は真剣な顔で議論を始める。
唯奈は、その様子をぼんやり眺めたあと、
ゆっくりと口を開いた。
「……なぁ」
誰も気づかない。
「なぁっつってんだっぺ!」
全員が振り向く。
唯奈は煤だらけの顔で、親指を立てた。
「私の心配、誰もしねぇのな?」
一瞬の沈黙。
そして唯奈は、深いため息をつき、
はっきりと言い放った。
「……ダメだこりゃ」
すみれコーチと開発担当者は顔を見合わせ、
「あわわ……」
「すみません……」
その背後で、
壊れた装置からぷすぷすと煙が上がり続けていた。
工場の外では、
今日も太田市の空が、何事もなかったかのように晴れていた。
なお、試作品は第一号。
改良は、これからである。
(被験者:山口唯奈。次回も多分、呼ばれる。)




