弾は撃たない、拍手に動揺する ――空の女神・若林あおい
若林あおいの参加は、戦隊ヒロインプロジェクトにとって明らかな転換点だった。
航空自衛隊からの出向。
ヘリコプター搭乗員としての実戦経験。
後方支援、空輸、索敵、救出――
どれを取っても、彼女の判断は速く、静かで、そして確実だった。
前線で美月が踏ん張れるのも、
みのりが冷静に判断を下せるのも、
彩香やのどか、なつめが思い切った動きに出られるのも、
「上に、あおいがいる」
その一言が、無意識の支えになっていたからだ。
業務口調で、感情を挟まない指示。
必要なことだけを、必要な順で伝える声。
無駄のない言葉は、仲間の命を預かる者のものだった。
中性的で端正な顔立ち。
背筋の伸びた立ち姿。
年長者でありながら、決して威張らない態度。
ヒロインたちの間では、
「頼れる」「憧れる」「ついていきたい」
そんな評価が、自然と定着していった。
――ただし。
それはあくまで任務中の話である。
イベントステージに立った瞬間、
若林あおいは別人のようになる。
マイクを渡されると、わずかに間が空く。
観客の視線に戸惑い、言葉を選びすぎて沈黙が生まれる。
気の利いた一言? それは空では不要な装備だ。
「……任務外の発言は、想定しておりません」
その真顔の一言で、
客席がざわつき、やがて笑いに変わる。
香澄が横でフォローし、
小春が軽く受け止め、
ヒロインたちが「いつものあおいさんだね」と苦笑する。
本人はそれを見て、少しだけ照れたように言う。
「正直に申し上げます。
イベントステージは、戦闘任務より緊張します」
その言葉に、誰もが納得した。
完璧ではない。
むしろ、不器用。
だが逃げない。
苦手でも立つ。
任務だから。
航空自衛隊幹部である父からは、
相変わらず軍人口調でこう言われているらしい。
「イベントステージも広報任務だ。
国民理解を得るための重要作戦と心得よ」
そのたびに、あおいは小さく息を吐く。
空では冷静沈着な女が、
地上では一番緊張している。
それでも彼女は今日もヘルメットを脱ぎ、
制服の襟を正し、
マイクの前に立つ。
空で仲間を守るために。
地上で誰かに伝えるために。
――その姿を、誰かがふと見上げる。
ローター音の残響が消え、
ステージの照明が少し落ちる。
ここで、物語は一度、静かに区切りを迎える。
そして、
あの“聞き覚えのある低音”が、
ゆっくりと世界を包み込む。
■無駄に重厚で低音なナレーション
「空を制する者は多い。
だが、空から地上を見続ける者は少ない。
若林あおい。
弾は撃たず、命を拾い、
拍手よりも任務を選ぶ女。
空では女神。
地上では、不器用な一人の戦士。
今日も彼女は、
ヘリのローター音と、
イベント会場のざわめきの間で、
静かに戦い続けている。
空の女神は――
今日もマイクの前で、少しだけ震えながら。」




