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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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426/453

空では英雄、地上では鉄仮面 ――ヘリの女神はマイクが怖い――

戦闘任務における若林あおいは、ほぼ無敵だった。


「高度三百、風向き北西。

降下ポイント確認。投入します」


ヘリの操縦桿を握る姿は冷静沈着。

空からの支援、輸送、索敵、回収。

前線のヒロインたちは、無意識にこう思っている。


――あおいさんが上にいるなら、大丈夫。


規律を重んじ、仲間想い。

年長者でありながら偉ぶらず、指示は的確、判断は迅速。

宝塚歌劇の男役のような中立的で凜とした風貌も相まって、

密かに憧れているヒロインは少なくなかった。


ところが。


「……えー、本日は……」


イベントステージに立った瞬間、

その空の女神は別人になる。


背筋はピンと伸びている。

表情は崩れない。

声は低く、無駄がない。


――が。


「……以上であります」


客席、微妙な沈黙。


MCの西里香澄が、すぐにマイクを拾う。


「はーい!

皆さーん、今の、航空自衛隊式のご挨拶でした~!」


ドッと笑いが起きる。


あおいは内心で頭を抱えた。


(……戦闘より、緊張する)


イベントステージ。

それは、彼女にとって最難関任務だった。


質問を振られても、


「はい。

その件につきましては……」


と、なぜか報告書口調。


「好きな食べ物は?」


「……炭水化物全般です」


「休みの日は何を?」


「……体力回復に努めています」


鉄仮面、健在。


「これはアカンわ」


楽屋で誰かが小声で言った。


そこへ現れたのが、

熊本の秘密兵器――西里香澄である。


元・バスガイド。

マイクを持たせたら無双。

空気を読む速度が異常に速い。


「若林さん」


香澄はにっこり笑った。


「ステージは、戦場と違って“間”が命です」


「……努力します」


「努力はいりません。

今日は遊びます」


そのまま本番。


香澄は、満面の笑みで言った。


「それでは~

若林あおいさんに、加賀弁で一言お願いしまーす!」


あおいの脳内が真っ白になる。


(か、加賀弁……?

……父の実家の方言……)


「……え、えっと……」


会場、ざわつく。


「……き、今日は……

来てくれて、ありがと……なんやけど……」


どっと笑いが起きた。


「えーっと……

ほ、ほんなら……

気ぃつけて、帰らんなん……」


完全に迷子。


香澄がすかさずフォローする。


「皆さん!

今の、限界まで頑張った加賀弁です!」


爆笑。


あおいは赤面しながら、苦笑いする。


「……イベントステージは……

任務よりも、緊張します」


その正直な一言に、

会場はまた温かい笑いに包まれた。


楽屋に戻ると、

スマホが震えた。


――父からの着信。


「若林あおい」


軍人口調。


「本日のイベント映像を確認した。

よくやった」


「……ありがとうございます」


「イベントステージは、

航空自衛隊を広く市民に知ってもらうための

極めて重要な広報任務である」


「……はい」


「今後も、全力で取り組め」


一拍。


「……父さん」


「何だ」


「……戦闘より、難しいです」


一瞬の沈黙の後。


「それでいい。

それが“市民の前に立つ”ということだ」


通話終了。


あおいはスマホを下ろし、ため息をついた。


「……空の方が、楽だな」


そう呟きながらも、

口元は、ほんの少し緩んでいた。


空では英雄。

地上ではポンコツ。


それでも彼女は今日も、

ヘリとマイクの両方を背負って飛ぶ。


――任務だから。

そして、仲間と市民のためだから。


次のイベントも、

きっとまた、緊張する。


でもそれを、

誰よりも真面目にやるのが、若林あおいだった。

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