敵が一番嫌がる“普通の仕事 ――戦況を壊すのは、目立たない女だった
戦闘は、いつも爆発音から始まるわけではない。
この日の戦場は、むしろ不気味なほど静かだった。
前線に展開していたのは、
千葉の叡智・館山みのり、
河内の突貫隊長・赤嶺美月、
播州の切れ味・西川彩香、
広島の武闘派・江波のどか、
そして土佐の突進娘・神代なつめ。
彼女たちを、空から見下ろしている存在が一人いた。
若林あおい。
航空自衛隊から出向中の、ヘリコプター搭乗員。
弾は撃たない。前にも出ない。
だが、この戦場で一番“仕事をしている”人間だった。
「敵の配置、想定より広がってる」
みのりが冷静に状況を分析する。
「ほな、ウチが突っ込んだら一気に崩れるやろ」
美月が肩を回し、前に出ようとした瞬間。
無線に、低く抑えた声が割り込む。
「赤嶺、前進は三歩まで。右側に伏兵、二十秒後に動きます」
若林あおいの、業務口調だった。
「……は? なんで分かるん?」
「敵補給線の動きが止まりました。
焦って前に出てきます」
美月は舌打ちしつつも、足を止める。
「ちっ……相変わらずイヤなタイミングで言うてくるなぁ」
「止まる判断、正しいよ」
みのりが静かに補足する。
一方、別ルートを見ていた彩香が声を上げた。
「なぁ、なんかおかしない?
敵、逃げ道残しとるのに、誰も使ってへんで」
「それが狙いです」
あおいの声は淡々としている。
「退路はある。だが安全ではない。
人は“逃げられるはずの場所”が危険だと判断すると、動けなくなる」
「……警察的に一番嫌なやつやな」
彩香が苦笑した。
後方では、のどかが補給箱を担ぎながら呻いていた。
「ちぃと遅れとるんよ、これ……間に合うかのぉ」
「問題ありません」
あおいは即答する。
「敵の補給は完全に遮断されています。
こちらは急ぐ必要がない」
「……ほいじゃ、ゆっくり行くけぇ」
なつめが楽しそうに笑う。
「敵さん、完全に迷子やき。
撃たれんのに、心が折れよる」
前線で、美月が再び構える。
「行けるんか、今度は」
「はい。五秒後に」
五、四、三――
「今です」
その瞬間、敵陣が一斉に動いた。
だが、遅い。遅すぎた。
みのりが的確に指示を飛ばし、
彩香が横から切り込み、
のどかとなつめが圧をかける。
美月は一発、大きく踏み込んだ。
「ほら見い!
逃げ場あっても、頭回らんかったら意味あらへんねん!」
戦闘は、あっけなく終わった。
追撃はない。
捕縛も最小限。
「……終わった、んだよね?」
のどかがきょとんとする。
「うん。もう崩れてる」
みのりが答える。
彩香が無線に向かって言った。
「若林。
アンタ、ほんまに何もしてへんようで、一番エグいで」
「任務を遂行しただけです」
あおいの声は、最後まで変わらなかった。
なつめが笑う。
「敵からしたら最悪やね。
派手に負けた方が、まだ気持ち切り替えられるき」
美月は肩をすくめた。
「せやな。
今日の勝因は――」
少し間を置いて、はっきり言った。
「“普通の仕事”や」
空を見上げると、ヘリの影がゆっくりと旋回していた。
誰も派手なポーズは取らない。
誰も勝ち誇らない。
だが全員が分かっていた。
この戦場を終わらせたのは、
一番前に立った者ではない。
見えないところで、
当たり前の仕事を積み重ねた女だった。




