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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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419/453

空は得意、ステージは苦手――ブルーより赤い戦隊ヒロイン

石川県小松市。

北陸の空は広い。とにかく広い。視界を遮るものが少なく、晴れた日は空が“近い”と錯覚する街だ。世界的な建機メーカーの本社がどんと構え、空港があり、航空自衛隊の基地もある。町を歩けば、子どもが飛行機の音に顔を上げるのが日常。

この街では、空は遠い夢ではなく、生活の一部だ。


若林あおいは、そんな小松市で育った。

父は元・航空自衛隊の戦闘機パイロット。家に帰れば寡黙、だがテレビで戦闘機が映れば急に饒舌になる、いかにも“昭和の空自父”である。


「高度、風向、雲量はな……」

夕飯時に始まる空の講義に、幼いあおいは黙って頷いていた。

空は、最初から身近だった。


高校卒業後、あおいは迷わず航空自衛隊へ。

理由はシンプルだ。

「空が好きだったから」

それ以上でも以下でもない。


だが彼女の配属は、ちょっと珍しかった。

女性ではまだ少ない、ヘリコプター搭乗員。

体力、判断力、冷静さ。どれも要求される現場で、あおいは淡々と、確実に評価を積み上げていった。


姿勢は常にまっすぐ。

言葉は必要最小限。

無駄な愛想はないが、無礼もない。


そして、ある日。

「政府専用機の客室乗務、やってみないか」


本人が一番驚いた。

“え、私ですか?”

整った顔立ちと、清潔感、規律正しさ。

制服姿のあおいは、確かに映えた。

が、本人は終始、**「任務なので」**という顔だった。


そんなあおいの元に、ある話が舞い込む。

――戦隊ヒロインプロジェクト。


航空自衛隊と戦隊ヒロインの連携を深めたい。

女性自衛官の募集にも繋げたい。

その広告塔として、容姿端麗・品行方正・経歴完璧な若林あおいは、理想的すぎる素材だった。


……本人の意思を除けば。


「イベント……ステージ……?」

あおいは眉一つ動かさず、しかし内心では完全に拒否していた。

空ならいくらでも飛べる。

だが、拍手と歓声の中で笑顔を振りまく?

それは、訓練に含まれていない。


「私は……自衛官です」

あおいは丁寧に、だがきっぱり断った。


だが、ここで最強カードが切られる。

父、登場。


「やれ」

以上。


「いや、理由……」

「やれ」


航空自衛隊幹部となっていた父の“圧”は、

戦闘機のアフターバーナー並みに強力だった。


「広告塔も任務のうちだ」

「空自の顔になれると思え」

「何より……かっこええ」


最後の一言で、あおいは敗北した。


こうして半ば強引に、

若林あおいは戦隊ヒロインプロジェクトに参加することになる。


本人のテンションは、地上滑走中。

いや、むしろ駐機状態。


イベント説明を聞いても、

「……必要最低限で」

衣装合わせでも、

「……動きやすさは確保されていますか」


ヒロイン達が「キャー!」「かわいい!」と盛り上がる中、

あおいだけが静かに立っている。


だが、その静けさが逆に目立つ。


「なんか……カッコよくない?」

「姿勢、反則じゃない?」


本人が一番困惑した。

何もしていないのに評価される現象に、どう対処すればいいのか、マニュアルが存在しない。


ステージに立てば、

笑顔はぎこちない。

手を振るタイミングも一拍遅れる。


それでも――

ピンと伸びた背筋と、ブレない立ち姿だけは、誰よりも美しかった。


「……敬礼、した方がいいですか?」

控室で真顔で聞いて、周囲を爆笑させたのは、この頃だ。


本人は至って真剣。

だが、その堅物ぶりが、逆に愛され始める。


「空は任せてください」

「地上イベントは……努力します」


若林あおい。

空では完璧。

地上では不器用。


だが、そのギャップこそが、

彼女を唯一無二の戦隊ヒロインにしていく――


……と、この時点では、本人だけが気づいていなかった。


あおいは今日も、ステージ袖で小さく息を整える。

心の中でつぶやく。


「……任務だ。これは任務だ」


観客の拍手が、少しだけ、

ヘリのローター音に似て聞こえた。

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