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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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418/458

宇宙刑事(仮)会議に、空自が着陸した日

東京都港区新橋。

“国家特務戦隊ヒロインプロジェクト推進室”――通称ヒロ室のミーティングスペースは、今日も今日とて平和だった。いや、平和というか、だいぶアホだった。


丸テーブルの周りにいるのは、赤嶺美月、月島小春、白石陽菜。

この三人が揃うと、会議室は会議室であることを諦める。しかも、恒例行事がある。


美月が壮大にボケる。

世間知らずのお嬢様・陽菜が本気で受け取る。

小春が標準語で突っ込む。


ヒロ室は文化遺産か何かなのか。


「陽菜ちゃん、最近なんか悩みあるん?」

美月が、やけに優しい声を出した。こういう時はだいたい罠だ。


「いえ……特に、ございませんけど……?」

陽菜が素直に首を傾げる。


「そっかぁ。ほなええわ。今日から陽菜、火星配属な」

美月がさらっと言った。


「火星……配属……?」

陽菜の目が真剣に丸くなる。


「待って待って、いきなり宇宙人事やめて」

小春が即座に突っ込む。東京下町育ちのツッコミは、歯切れがいい。


美月はテーブルに肘をつき、なぜか偉そうに頷いた。

「いや、来る流れや思うねん。ほら、なんか最近、テレビの……なんやったっけ」


そこへ小春が話題を投げる。

「そうそう! テレビのスーパー戦隊シリーズ、後番組が宇宙刑事だって~」


その瞬間、美月の妄想エンジンが点火した。

「ほら来た! 宇宙刑事や! もうウチらも次は宇宙刑事やろ! 陽菜、火星行って火星の悪の秘密結社と戦うんや!」


「火星に……秘密結社があるのですか……?」

陽菜の声が、完全に“授業で先生に質問する生徒”のトーンになる。


小春が椅子から半分ずり落ちた。

「陽菜ちゃん、それは美月パイセンの脳内だけに存在する団体だから!」


だが美月は止まらない。むしろ熱を帯びる。

「あるで。足八本くらいあるタコみたいな火星人がボスでな。『タコ星団せいだん』とか言うねん。宇宙刑事になって、光線銃でバァンよ!」


「タコ……星団……!」

陽菜がメモを取る勢いで頷いた。真面目さが無駄に怖い。


小春が天を仰いだ。

「やめて、陽菜ちゃんの中に“火星の治安情報”として登録されちゃう!」


美月はさらに畳みかける。

「ほな決まりや。陽菜は宇宙刑事・マーズホワイト。ウチは宇宙刑事・オオサカレッド。小春は……えーと……」


「なんで私だけ適当なの」

小春が冷たく言う。


その時、会議室のドアが軽くノックされた。

明るい声がする。


「はいはい、宇宙刑事、かっこええら~」


駿河弁。

遥室長だ。


三人が振り向くと、遥はいつもの“穏やかなのに仕事が早い”オーラのまま、少し横に退いて言った。


「新しい仲間を紹介するね。みんな、ちゃんと座りな~」


美月がまだ「火星のタコ星団がな」と言いかけたところで――


入ってきた人物を見た瞬間、空気がバキンと切り替わった。


若林あおい。


宝塚の男役みたいな中性的な顔立ち。

整えられたショートカット。

背筋はピシャッと一直線で、歩幅も無駄がない。

そして、パリッとした軍服調の戦隊ヒロイン制服が、やたら似合う。似合いすぎて怖い。


さっきまで“火星の秘密結社”で盛り上がっていた会議室が、急に職場になった。


美月ですら、言葉を失った。

陽菜が小さく「……かっこいい……」と漏らした。

小春は何も言わない。言えない。出るのはため息だけだ。


遥室長が紹介する。

「若林あおいさん。みんなより少しお姉さんで、航空自衛隊からの出向だよ。ヘリで空からの輸送や後方支援をお願いすることになる。イベントステージにも立ってもらうよ」


あおいは軽く一礼。

動きが静かで、きれいで、無駄がない。

この人、生活の中に“余計な動作”って概念が存在しない。


美月がようやく息を吹き返し、目をキラキラさせた。

「ヘリコプター……! ええなぁ! ウチら、海外のスパイ映画みたいに、ヘリから出る梯子に捕まって敵の追撃かわすんやな! かっこええわぁ!」


小春がすぐ刺す。

「それ、だいたい落ちるやつだからね」


陽菜が、真剣な顔であおいに質問した。

この流れを止める人間が誰もいないのが、ヒロ室の怖いところだ。


「若林さん……ヘリコプターで……火星まで行くんですか……?」


一瞬。


遥室長の笑顔が固まった。

小春は“終わった”という顔をした。

美月は脳内で何かが爆発したのか、口を開けたまま固まった。


そして――


あおいは、微動だにせず、まっすぐ陽菜を見て、淡々と言った。


「……火星は、航続距離の規格外です。まずは地球の安全から。」


その瞬間、会議室が崩壊した。


「いや真面目に返すんかい!!」

小春が椅子からずり落ちた。


「規格外て言うた!!」

美月が腹を抱えて転げた。


「すみません! すみません!」

陽菜は本気で謝って、さらに混乱を増幅させた。


遥室長は「はいはい、宇宙刑事会議は終わり~」と駿河弁でまとめようとしたが、もう遅い。

吉本新喜劇みたいに、全員がタイミングを合わせて――


ズコーーーッ!!

(※心の中で)


ただ一人、若林あおいだけが転ばない。

転ばないどころか、涼しい顔で立っている。


そして、少しだけ口元が緩んだ。

ほんの一ミリ。


それを見た美月が、床から顔を上げて言った。

「……あおいさん、笑った? 今、笑ったやろ?」


あおいは、静かに言った。

「私は……規律を守ります。」


小春が即座に結論を出す。

「この人、めちゃくちゃ面白い人だわ」


陽菜が、まだ火星を諦めきれない顔で頷いた。

「はい……火星は……地球の次ですね……」


遥室長は、ため息をつきながら笑った。

「うん。まず地球ね。まずは、会議資料ね」


こうして、航空自衛隊から来た“厳粛”が、

ヒロ室の“アホ”を一瞬だけ整列させ、

結局、さらに面白くした。


若林あおい初登場の日。

ヒロ室は、地球より先に、もう一回転した。

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