富山湾は今日も荒れている――爆乳マーメイドと二人の父と、止まらないラッパ
富山県高岡市。
日本海に面した港湾都市で、魚がやたらと美味い。
寒ブリ、ホタルイカ、白えび。
朝の市場では「これ、さっきまで泳いどったがやぞ」という台詞が普通に飛び交い、
海と生活がべったりくっついた街である。
そんな高岡市に、
とんでもない生物が誕生した。
氷見ゆりえ。
小柄で童顔、
控えめで地味、
声も小さく自己主張も少ない。
――なのに。
なぜか胸部だけが、
日本海の荒波に鍛え上げられたかのように異様に発達しており、
気づけば業界で
「富山湾の爆乳マーメイド」
などという、どうかしている異名をつけられていた。
本来の進路は、
地元漁協への就職。
実家は代々漁師。
父は昭和ど真ん中の頑固オヤジ。
「堅気が一番」
「芸能界なんぞ色物や」
という価値観を一ミリも疑わない人間だった。
その人生設計を、
一人の男が、力技で破壊した。
業界の名物社長、
ノムさん。
正式名称より
「野村ラッパ」
の方が有名な男である。
「ワシがな、
深い富山湾の海底から引き揚げたんや!
ダイヤの原石や!!」
発掘した瞬間から、
ラッパは吹き荒れた。
吹く。
盛る。
盛りすぎる。
「地殻変動!」
「歴史が変わる!」
「百年に一人!」
周囲は、
「あぁまた始まった」
と半笑い。
だが、
ゆりえは逃げなかった。
レッスンは壊滅的。
講師が本気で頭を抱えるレベル。
それでも、
誰よりも早く現場に来て、
誰よりも真面目に、
地味に、
コツコツと積み上げた。
ラッパの音に埋もれながら、
本人の足音だけが、確実に残っていった。
結果、
グラビアデビューは成功。
「童顔小柄で、あの胸は反則」
「見たことない」
業界内で、
静かに、しかし確実に評価が広がった。
戦隊ヒロインとしての現場でも、
礼儀正しく、
空気を読み、
スタッフ受けは抜群。
「野村ラッパ抜きでも、
この子はちゃんとしてる」
そんな声が、
増えていった。
ゆりえ自身は、
ノムさんに心から感謝している。
「私を見つけてくれた人」
「東京のお父さん」
そう呼んでいる。
そしてもう一人の父。
高岡の漁港に立つ、
昭和の頑固オヤジ。
最後まで芸能界入りに反対し、
今も口癖は
「ワシャ知らん」。
娘の出演番組をこっそり録画し、
漁船の中にグラビアポスターを貼り、
仲間に冷やかされても
「ワシャ知らん」。
誰よりも応援しているのに、
絶対に認めない。
ツンデレという言葉が、
これほど似合う男も珍しい。
家族からも、
漁師仲間からも、
「バレバレやちゃ」
と笑われている。
そんな二人の父に見守られながら、
氷見ゆりえは今日も現場に立つ。
グラビアアイドルとして。
戦隊ヒロインとして。
ラッパは今日も鳴る。
父は今日も「ワシャ知らん」と言う。
だが、
そのど真ん中で、
ゆりえは静かに前へ進んでいる。
富山湾の深海から引き揚げられた、
少し不器用で、
よく光る原石はまだ磨き上げられたばかり。




