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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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416/453

ラッパの音、努力の音 ――過小評価の向こう側で、彼女は黙って積み上げていた――

 業界には、

 信用してはいけない音がいくつかある。


 その筆頭が、

 野村ラッパである。


 「今度の新人はなぁ〜!!

 百年に一人や!!

 歴史が変わる!!

 地殻が動く!!」


 ——はいはい。

 また始まった。


 誰もがそう思う。


 実際、

 野村ラッパが吹き荒れた案件の

 八割は“普通に終わる”。


 残り一割は途中で消え、

 ごく稀に当たる。


 だから、

 氷見ゆりえが名前を知られ始めた頃、

 業界の反応は概ねこうだった。


 「どうせまたノムさんが吹いてるだけでしょ」

 「最近は富山湾まで使い始めたか」

 「奇跡、何個目だよ」


 ——ラッパ枠。


 ゆりえは、

 その棚に放り込まれていた。


 イベント現場でも同じだ。


 「はいはい、ノムさんとこの子ね」

 「話題先行型でしょ?」

 「現場慣れしてないだろうし」


 だが、

 その評価は、

 現場を見ていない人間のものだった。


 ゆりえは、

 誰よりも早く会場に来る。


 入り時間の

 30分前。


 スタッフがまだ

 照明チェックをしている時間に、

 既に控室の隅で

 ストレッチをしている。


 「おはようございます」

 「今日もよろしくお願いします」


 声は小さいが、

 挨拶は必ず自分から。


 イベント動線を確認し、

 立ち位置を頭に入れ、

 マイクの高さを自分で調整する。


 誰に言われたわけでもない。


 ただ、

 失敗したくないからだ。


 野村ラッパが

 どれだけ吹こうが、

 ステージに立つのは自分。


 だから、

 やることはやる。


 ある日、

 若手スタッフがぼそっと言った。


 「……あの子、

  地味だけど、

  めちゃくちゃちゃんとしてません?」


 ベテランが答える。


 「気づいたか」

 「一番最初に来て、

  一番最後に帰るタイプだな」


 別の日。


 照明トラブルで

 開始が遅れた時。


 観客がざわつく中、

 ゆりえは

 笑顔で前に出た。


 「少しだけ、

  お待ちくださいね」


 その一言で、

 空気が和らいだ。


 誰かが言った。


 「……あれ、

  想像より、

  ちゃんとしてる」


 だが、

 そこへ聞こえてくる。


 「うちのゆりえはなぁ!!

  緊張を空気に変える天才や!!

  生まれながらのスターや!!」


 ——野村ラッパ。


 空気が一気に戻る。


 「はいはい」

 「結局それね」


 ゆりえは、

 少しだけ苦笑いした。


(……まただ)


 自分が頑張った部分より、

 ラッパの音の方が大きい。


 でも、

 彼女は言わない。


 不満も、

 言い訳も。


 ただ、

 次の現場でも、

 同じように早く来て、

 同じように丁寧に挨拶をする。


 ある日、

 波田顧問が

 ふと口にした。


 「最近さ、

  現場の評判、

  ゆりえちゃん、

  やけにいいよね」


 周囲が一瞬、黙る。


 誰かが言った。


 「……ノムさんのラッパ抜きで?」


 波田は笑った。


 「抜きで」


 その夜、

 控室で一人、

 荷物をまとめていたゆりえに

 小さな声がかかった。


 「ゆりえちゃん」


 振り向くと、

 スタッフが頭を下げた。


 「いつも助かってます」


 ゆりえは、

 一瞬驚いてから、

 小さく笑った。


 「こちらこそです」


 その様子を、

 少し離れたところで

 野村が見ていた。


 珍しく、

 ラッパを吹かない。


 「……なぁ」


 隣のスタッフに、

 ぽつりと言う。


 「ラッパの音がでかすぎてな、

  本人の足音が聞こえんかったな」


 スタッフが笑う。


 「やっと気づきましたか」


 野村は、

 ニヤリとした。


 「せやから、

  これからも吹くで?」


 「やめてください」


 「無理や」


 ラッパは、

 今日も鳴る。


 だが、

 その下で、

 静かに積み上がる音がある。


 ——早朝の足音。

 ——丁寧な挨拶。

——誰にも見せない努力。


 それを知っている人間が、

 少しずつ、

 確実に増えていた。


 ラッパが止んだ時、

 残るのは、

 彼女自身だ。


 それを、

 現場はもう、

 分かり始めていた。

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