慣れっこヒロインと爆音ラッパ ――戦隊ヒロ室は今日もうるさい――
戦隊ヒロインの現場には、独特の空気がある。
派手な衣装、元気な挨拶、そして――
だいたい何かしら起きている。
この日もそうだった。
ヒロ室の一角。
ミーティング用の長机を囲み、美月、綾乃、みのり、香澄ら数名のヒロインたちが台本を眺めている。
空気はゆるい。
いつも通りだ。
「で、次のイベント、立ち位置ここな」
「はいはい」
「次は船橋?最近千葉率高ない?」
そこへ、
ドアが開く前から嫌な予感がした。
「おはようございまぁぁぁす!!」
反射的に、全員が顔を上げる。
「あ……」
「来た」
「ノムさんや」
野村である。
ラッパ付きである。
「いやぁ〜!
今日もヒロイン界は平和か!?
違うな!!
革命の日や!!」
誰も驚かない。
誰も動じない。
彩香が小声で言う。
「まぁノムさんやし……」
美月が頷く。
「今日は何吹くんやろな」
野村は止まらない。
「紹介するでぇ!!
我がブラックキャブが誇る——
静かに売れてる怪物!!
越中富山が生んだ奇跡!!
氷見ゆりえや!!」
拍手は、起きない。
代わりに、生温かい視線が集まる。
「……ああ、ゆりえちゃんね」
「噂は聞いてる」
「胸が大変な子や」
ゆりえは、
その場で直立し、深く頭を下げた。
「は、はじめまして……
よろしくお願いします……」
声は小さい。
態度は丁寧すぎるほど丁寧。
野村が横で腕を振り回す。
「ええかお前ら!
この子はなぁ、
戦隊ヒロイン界の空白地帯を埋める存在や!!」
美月が即座に返す。
「空白て、どこやねん」
彩香が続く。
「ていうか、また話盛っとるやろ」
全員、平常運転だ。
そんな中、
ゆりえの横に、そっと寄ってくる影があった。
先輩ヒロイン・みのりである。
千葉の叡智。
場を読む能力が異常に高い。
「……ゆりえちゃん、だよね」
「は、はい……」
「大変だったでしょ。
ノムさん付きで来るの」
ゆりえの肩が、ほんの少し緩む。
「……はい……ちょっと……」
「うん、わかる。
でもね」
みのりは笑う。
「ここ、慣れてるから大丈夫」
その瞬間、
野村が背後で叫ぶ。
「みのりぃ!!
ええ先輩やなぁ!!
やっぱ千葉は知性が違う!!」
みのり、即座に一歩引く。
「距離近いです」
爆笑。
美月が手を叩く。
「もうええわノムさん、
毎回それやん」
彩香が腕を組む。
「ゆりえちゃん、
慣れたらな、
ノムさんの声、BGMになるで」
「……BGM……」
「うん。
たまに耳障りなだけの」
再び笑い。
野村は、
誰にも止められず、
誰にも本気にされず、
それでも絶好調だった。
「ええか!!
この子はな!!
戦隊ヒロイン界に静かな津波を起こす!!」
美月が即答。
「静かなんか、うるさいんか、どっちや」
彩香も畳みかける。
「ノムさん一人で騒音公害や」
完全に通常営業だ。
ゆりえは、
その様子を見ながら思った。
(……怖い場所かと思ってたけど)
みのりが、小声で囁く。
「ね?
変でしょ、ここ」
「……はい」
「でもね」
みのりは優しく続ける。
「変な人ほど、優しいから」
ゆりえは、
初めてちゃんと笑った。
その背後で、
今日も野村ラッパは吹き荒れている。
だがヒロインたちは、
誰一人として耳を塞がない。
——それが、この現場の強さだった。




