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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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413/482

静かに売れる女と、うるさすぎる男 ――野村ラッパ、ギョーカイに非常ベル――*

その日、都内某所の撮影スタジオは、朝から妙に落ち着かなかった。

 照明は整い、カメラマンは無駄口を叩かず、編集者も台本に目を落としたまま。

 理由は簡単だ。


 野村が来る。


 正確に言えば、

 野村ラッパが吹き荒れる可能性が高い日だった。


 スタジオの片隅で、氷見ゆりえは静かに椅子に座っていた。

 派手なメイクはしていない。

 髪もきっちりまとめ、衣装も控えめだ。

 どこにでもいそうな、少し童顔の女の子。

 ただし——サイズ感だけが、どう考えても現実を裏切っている。


 「……よろしくお願いします」


 小さく頭を下げる。

 声は柔らかく、態度は丁寧。

 撮影スタッフの誰もが内心で思う。


(感じはいい)

(めちゃくちゃいい)

(……でも、地味だな)


 そこへ、ドアが勢いよく開いた。


 「おはようございまぁぁぁす!!」


 空気が割れた。


 野村である。

 ノムさんである。

 そして今日も、絶口調だ。


 「いやぁ〜!来たで来たで!

 ついに来たな、地殻変動の日が!」


 編集者が視線を伏せる。

 カメラマンが軽く天井を見る。

 マネージャーは、もう諦めの表情だ。


 (ああ……始まった)


 野村は止まらない。


 「ええか皆さん!

 この子はな、ただの新人ちゃう!

 静かに売れてる怪物や!

 音も立てずに、じわじわ地盤沈下起こしとる!」


 誰も否定しない。

 だが、誰も乗らない。


 「富山湾の深海でな、

 誰にも見つからんまま光っとったんや!

 ワシが掬い上げたんや!

 ダイヤや!原石や!

 いや、もう半分磨けとる!!」


 スタジオ内、完全に無言。


 ゆりえはと言えば、

 その横で小さく背中を丸めていた。


(……そんなことないです)

(普通です)

(お願いだから、ちょっと静かにしてほしいです)


 心の声は、誰にも届かない。


 編集者が恐る恐る口を開いた。


 「あの……野村さん。

 今回の企画は、あくまで“様子見”で……」


 「様子見!?

 何言うとんねん!!

 様子見はもう終わっとる!!

 世間が追いついてないだけや!!」


 全員が一斉に思う。


(追いついてないのは、あなたのテンションです)


 撮影が始まる。

 カメラの前に立ったゆりえは、別人のように落ち着いていた。


 ポーズは素直。

 表情は自然。

 指示への反応が早い。


 カメラマンが、ふと呟く。


 「……撮りやすいな」


 照明スタッフが頷く。


 「無理がない」


 編集者はモニターを見つめたまま黙る。


 確かに派手さはない。

 だが、写真が嘘をつかない。


 野村だけが、耐えきれず叫ぶ。


 「どうや!!

 ワシの目は節穴ちゃうやろ!!

 これが“静かな革命”や!!」


 誰も反論しない。

 誰も同意もしない。


 撮影後、スタッフが小声で話す。


 「……正直、悪くない」

 「というか、かなりいい」

 「でもさ……」


 全員が同じ結論に辿り着く。


 「野村ラッパが吹きすぎ」


 当の本人は、満足そうに腕を組む。


 「ええ流れや……

 今はな、嵐の前の凪や。

 この静けさが怖いんやで」


 ゆりえは、そっと水を一口飲んだ。


 (……静かなままでいいのに)


 だがその背後で、

 業界に向けた野村ラッパは、すでに鳴り響いていた。


 静かに売れる女の横で、

 うるさすぎる男が走り出してしまったのである。

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