製鉄所の煙より高く吹き荒れる ――君津で迷子になった新人と、千葉勢の包囲網――
次のイベント開催地は千葉県君津市。
東京湾に面し、日本最大級の製鉄所がどっしりと構える一方で、少し内陸に入れば里山と田畑が広がる、硬派と長閑が同居する不思議な街だ。
近年は古民家を改造して住宅として提供する施策にも力を入れており、「都会に疲れた人が帰ってくる街」として、密かに注目を集めている。
そんな君津市の市民広場で開催された戦隊ヒロインイベント。
この日の顔ぶれは、正直言って――濃い。
MCは相変わらず安定感の化身、
江戸っ子ギャル・月島小春。
出演者には
・千葉が誇る叡智にして知性担当、館山みのり
・千葉県流山市出身、華やかだが謙虚なイベントコンパニオン、森川美里
そして――
富山から来た、まだ右も左も分からない新人、
氷見ゆりえ。
控室でその並びを見た瞬間、ゆりえは思った。
(……あ、ここ、強い人しかおらん)
ステージが始まる。
小春が君津市を全力で推す。
「君津といえば製鉄所!
でもそれだけじゃない!
里山もあって、古民家リノベで人も増えてる!
住みやすさ、千葉トップクラスです!」
みのりが頷く。
「千葉は奥が深いんですよ。
君津は“働く”と“暮らす”のバランスが非常に優秀です」
美里がにこやかに続く。
「イベントでも、すごく温かい街だなって感じます」
――完璧。
この三人、隙がない。
そこへ紹介される、ゆりえ。
「そして今日の新人!
越中富山から来ました、氷見ゆりえさんです!」
拍手。
だが、さっきより少し控えめ。
ゆりえ、一歩前へ。
……が、何を言えばいいか分からない。
小春、即座に察知する。
「ゆりえちゃん、君津の印象は?」
ゆりえ、考える。
真剣に考える。
そして――
「……製鉄所……大きいです……」
会場、どっと笑う。
小春、逃さない。
「間違ってない!
むしろ一番正しい!」
みのりが即フォロー。
「日本の産業を支えてますからね。
ゆりえさん、よく見てます」
美里が優しく続ける。
「でも里山もあって、落ち着きますよね?」
ゆりえ、必死に頷く。
(助けられてる……)
だが、本人は気づいていない。
――この三人、完全にゆりえを回し始めている。
質問はすべて短く、答えやすく。
言葉に詰まれば、すぐ拾う。
沈黙すら、笑いに変える。
小春が締める。
「いやー、君津、そして新人!
今日も大成功ですね!」
客席は大拍手。
袖で見ていた男が、拳を握りしめていた。
野村吉彦――ノムさん。
「ほら見ろ……!」
「濃い中に放り込んだ方が、
逆に光るんや!」
スタッフが冷めた声で言う。
「……それ、結果論ですよね」
ノムさん、胸を張る。
「結果が出たら、全部正解や!」
イベント後。
小春がゆりえに声をかける。
「大丈夫やった?」
ゆりえ、深く頭を下げる。
「……皆さんが、助けてくれました」
みのりが微笑む。
「一人でやらなくていいんですよ」
美里も頷く。
「埋もれそうな時ほど、ちゃんと見てる人は見てますから」
ゆりえは、その言葉を胸に刻んだ。
その背後で、ノムさんが高らかに宣言する。
「聞いたか!
千葉の叡智と千葉の華が認めた新人や!
これはもう――来るでぇ!」
スタッフ一同。
「あぁ……」
「また野村ラッパが……」
だが、君津の空に響いたそのラッパは、
製鉄所の煙よりも、
確かに高く吹き上がっていた。
――次も、騒がしくなりそうだ。




