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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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411/453

東久留米で起きた静かな事件 ――しゃべらない新人と、止まらない野村ラッパ――

東京都東久留米市。

西武池袋線で池袋から三十分弱。都心に近いのに、駅から少し歩けば湧水と黒目川、住宅街の間に畑が顔を出す、不思議な落ち着きを持つ街だ。

「東京の端っこだけど、ちゃんと東京」

イベント関係者の間では、そんな評価で知られている。


この日、東久留米駅近くの商業施設前広場で開催されたのが、戦隊ヒロインの地方巡業イベント。

地方とはいえ、ここは東京。

人の入りもよく、ファミリー層、学生、買い物ついでの主婦、そしてなぜかヒーローショーを一切見ないタイプの中年男性が最前列に陣取る、いつもの光景が広がっていた。


MCを務めるのは、安定感の化身、月島小春。

マイクチェック一つで空気を掴み、

「本日は東久留米市にお集まりいただき、ありがとうございます!」

その一声で会場の温度を一段上げる。


だが小春の脳内には、ひとつだけ不安があった。


――今日、新人がいる。


しかも噂では

・富山出身

・地味

・おとなしい

・ほぼ喋れない


イベントMC泣かせのフルコンボ。


「……今日は私の腕の見せどころだな」


そう腹をくくった瞬間、ステージ袖がざわついた。


現れたのは、

小柄で、童顔。

雪のように白い肌。

そして、その体躯にどう考えても収まりきらない、規格外の存在感。


氷見ゆりえだった。


客席が、静まる。


ざわつくでもない。

歓声でもない。

ただ、「見てしまった」空気。


小春は一瞬で察した。

「あ、これはアカンやつや。

しゃべらんでも全部持っていくタイプや」


紹介に入る。


「続いてご紹介するのは――

越中富山からやってきた、期待の新人、氷見ゆりえさんです!」


拍手。

しかし、どこか戸惑い混じり。


ゆりえは一歩前に出て、深く、丁寧に頭を下げた。

それだけ。


小春が振る。


「ゆりえちゃん、今日は初イベントですが、東久留米の印象は?」


ゆりえ、固まる。


目が泳ぐ。

口が少し開く。

そして――


「……あの……人が……多いです……」


会場、爆笑。


小春は即座に拾う。


「ですよね! 東久留米、人、多いんですよ!」

「でも緑も多くて、住みやすい街ですよね!」


ゆりえ、必死に頷く。


そこからは、小春の独壇場だった。

質問は短く、答えは選択式。

「富山と東京、どっちが寒いですか?」

「……富山です」

「即答!」


会場は完全に掴まれた。


イベントは無事終了。

拍手喝采。

「高岡の奇跡だ」「富山湾の爆乳マーメイドだ」と、どこからか聞こえてくる。


終了後、控室。


小春は深く息を吐いた。


「いやー……新人でアレは反則~」


そこへ、満面の笑みで入ってくる男が一人。


野村吉彦――通称ノムさん。

ブラックキャブプロダクション名物社長。

そして今日も、ラッパ全開。


「どうや、こはっちゃん!

東久留米で地殻変動起きとったやろ!」


小春、苦笑。


「起きすぎです。

新人が一言『人が多いです』言うただけで、全部持っていきました」


ノムさん、腹を抱えて笑う。


「それや!

それがええんや!

しゃべらんからこそ、全部が武器なんや!」


小春が半眼で見る。


「……また吹いてますね、野村ラッパ」


ノムさん、胸を張る。


「吹くでぇ?

ワシは言い切る。

この子はな、

グラビアも、イベントも、戦隊も、

全部ひっくり返す!」


スタッフが遠くで囁く。


「また始まったよ……」

「野村ラッパ絶好調やな……」


だが小春は、もう一度ステージを思い出していた。


――あの静まり返った一瞬。

――誰も目を逸らせなかった時間。


「……まあ」

小春は小さく笑った。


「吹きすぎてホンマになった例、

これまで何回も見てきましたしね」


ノムさん、満足そうに頷く。


「せやろ?

ほな次はもっとデカいとこ行こか」


東久留米の午後。

静かな街で起きた、静かな事件。


その中心にいたのは、

まだ何者でもない、

だが確実に“持っている”新人だった。


そして今日も、

野村ラッパは高らかに吹き荒れていた。

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