野村ラッパ最大音量──富山湾のマーメイド、戦隊に放り込まれる
「高岡の奇跡」
「富山湾の爆乳マーメイド」
そんな二つ名が、まるで最初から用意されていたかのように世間を駆け巡った。
氷見ゆりえ。
越中富山出身、童顔小柄、静かな性格。
なのに写真一枚で場の空気を変えてしまう、不思議な存在。
そして――
それを誰よりも面白がり、誰よりも誇張し、誰よりも吹き散らかしている男がいた。
「どうや!?
言うたやろ!?
ワシが富山湾の海底から引き揚げたダイヤの原石やって!!」
ブラックキャブプロダクション社長、
名物男・ノムさんである。
事務所の廊下を歩くだけで声が響く。
誰も聞いていなくても語る。
誰かが止めなくても、勝手に話は最高潮。
これが――
野村ラッパ。
そしてラッパが吹き荒れると、
この事務所では必ず何かが起きる。
「ノムさん、ちょっと落ち着いてください」
「今はグラビアの流れが――」
「甘い!!」
机を叩く音。
「グラビアだけで満足するタマやない!
あの子はな、
“動くともっとヤバい”タイプや!!」
スタッフ一同、嫌な予感。
「……まさか」
「……やらないですよね?」
ノムさん、満面の笑み。
「戦隊ヒロインや!!」
一瞬、空気が止まった。
「戦隊……?」
「いや、あの、ゆりえは地味ですし」
「しゃべりも得意じゃ――」
「それがええんや!!」
声がでかい。
「派手な連中ばっかりの中に、
無言で立っとるマーメイドが一人おったらどうなる!?」
誰も答えない。
「目、持ってかれるやろ!!」
論理は雑。
勢いは完璧。
しかも、ノムさんには“切り札”があった。
ブラックキャブプロダクションは、
戦隊ヒロインのイベント企画・運営にも深く関わっている。
そして――
波田顧問とノムさんは、長年の昵懇。
「波田さんよ、
ちょっと“面白い素材”おるんやけどなぁ」
電話一本。
「おうノムさん、
また変なの見つけたのか?」
「変じゃない!!
規格外や!!」
話は早かった。
数日後。
ゆりえは、ノムさんに呼び出された。
「えっと……次のお仕事のお話ですか?」
控えめに聞くゆりえ。
「せや」
「戦隊ヒロイン、やるぞ」
「……は?」
完全に固まる。
「せ、戦隊って……
あの、子ども向けの……?」
「夢と希望とスポンサーや!!」
訳が分からない。
「わ、私、
グラビアだけで精一杯で……」
「大丈夫や!!」
即答。
「何が大丈夫かは、
ワシもまだ分からん!!」
最悪である。
「え、えええ……?」
ゆりえの顔が真っ青になる。
「無理です無理です、
戦うとか聞いてませんし」
「アクションとか絶対できませんし」
「安心せえ」
ノムさん、にやり。
「戦隊ヒロインはな、
戦わんタイプもおる」
「……そうなんですか?」
「おる(はずや)」
はず?
「ええか、
お前は“立っとるだけで勝ち”や」
褒めているのか、丸投げなのか分からない。
その様子を見ていたスタッフが小声で言う。
「……また始まったな」
「野村ラッパ、最大音量だ」
「止めます?」
「無理でしょ」
ノムさんは、すでに未来を見ていた。
「富山湾のマーメイドがな、
戦隊の真ん中で黙って立っとるんや」
「子どもも大人も、
全員フリーズや!!」
ゆりえは、完全に置いていかれていた。
「……私、
そんなすごい人じゃ……」
ノムさんは、ぽんと肩に手を置いた。
「それでええ」
「自分で分かっとらん子が、一番怖い」
こうして――
野村ラッパが吹き荒れた結果、
「高岡の奇跡」は、
「富山湾の爆乳マーメイド」は、
グラビアの海を越え、
戦隊ヒロインプロジェクトという未知の荒波へと
半ば勢いだけで放り込まれることになった。
ブラックキャブプロダクション一同は思った。
――ああ、また何かが始まってしまった。
そしてノムさんは、
今日も絶口調で高らかに宣言する。
「見とけよ!!
次は“戦隊史に残る静寂”や!!」
誰も止められない。
なぜなら――
これが、野村ラッパだからである。




