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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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408/460

「ワシャ知らん」が誰よりも詳しい──高岡の奇跡、凱旋帰郷

「高岡の奇跡」。


そんな大層な呼び名が、いつの間にか定着していた。

本人は相変わらず地味で、控えめで、どこか落ち着かない笑顔のままだというのに。


晩夏から初秋にかけて、仕事の合間にぽっかり時間ができた氷見ゆりえは、久しぶりに故郷へ帰ることになった。

東京駅の喧騒を抜け、新幹線に揺られ、見慣れた日本海側の空気に包まれると、胸の奥が少しだけ軽くなる。


高岡の駅に降り立つと、母と姉が迎えに来ていた。


「おかえり」

「ちょっと痩せたんじゃない?」


そう言われて、ゆりえは慌てて首を振る。


「そんなことないよ」


家に帰ると、そこに父がいた。

腕を組み、テレビを見ているようで、画面はついていない。


「……おう」


それだけ。


だが、間髪入れずに続く。


「メシは、ちゃっと食っとるがか?」

「東京で、変なことしとらんやろな?」


相変わらずの素っ気なさに、母と姉は顔を見合わせてニヤリとする。


「大丈夫よ。元気そうじゃない」

「むしろお父さんの方が心配してる」


「ワシャ知らん」


即答。


だが、その夜。

食卓で何気なく姉が言った。


「そういえば、この前の番組、編集よかったね」


すると父が、箸を止めずに言う。


「……衣装が派手すぎる」


一瞬、時が止まった。


母がゆっくり顔を上げる。


「見てるじゃない」

「しかも細かい」


「ワシャ知らん言うとるやろ!」


声が裏返る。

ゆりえは、思わず笑ってしまった。


翌日。

父の漁船に乗せてもらった。


港の潮の匂い、エンジン音。

子どもの頃から変わらない風景。


ふと、船室の壁を見ると――


あった。


貼ってある。


どう見ても、ゆりえのグラビアポスター。


しかも、少し日焼けしている。


「……あの」


ゆりえが指を差すと、父は一瞬だけ視線を泳がせる。


「知らん」

「誰かが貼ったんや」


「漁船に?」

「誰が?」


「……知らん」


母と姉は爆笑。

港にいた漁師仲間もニヤニヤしている。


「船出る前に、必ず拝んどるやないか」

「安全祈願やろ?」


父は耳まで真っ赤だ。


「縁起もんや!」

「それだけや!」


帰郷最終日。

玄関で靴を履くゆりえに、父が背中越しに言った。


「……高岡の奇跡とか、持ち上げられとるらしいが」

「いい気になるな」


ゆりえは振り返る。


「……知ってるんだ?」


父は一瞬、沈黙。


「ワシャ知らん」

「ただ、漁師仲間が言っとった」


だが、どう考えても詳しすぎる。


雑誌名も、時期も、全部合っている。


母が小声で言う。


「誰よりもチェックしてるのよ」

「帰りの新幹線の時間も調べてたし」


「言うな!」


父は声を荒げ、そして小さく付け足す。


「……体だけは、壊すな」


それだけだった。


ゆりえは深く頭を下げた。


「うん」


新幹線が動き出す。

ホームに立つ家族の中で、父は最後まで手を振らなかった。


だが――

帽子のつばを、何度も直していた。


「ワシャ知らん」。


そう言いながら、

誰よりも娘を見て、

誰よりも心配している昭和の頑固オヤジ。


高岡の奇跡は、

そんな不器用で優しい背中を背負って、

また東京へ戻っていった。


次に帰ってくる頃には、

船室のポスターがもう一枚増えているかもしれない。

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