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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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405/456

東京着、野村ラッパ全開。――越中富山の原石、都会に立つ

北陸新幹線「はくたか」号は、定刻どおり東京駅に滑り込んだ。


扉が開いた瞬間、氷見ゆりえは思わず立ち止まった。

人。人。人。

流れるように、いや押し寄せるように動く群れ。天井の高さ、アナウンスの多さ、音の密度。富山で見てきた駅とは、まるで別の惑星だ。


「……ひと、多い……」


思わず口から零れた言葉は、完全に本音だった。


スーツケースを引く手が、少しだけ強ばる。

期待していなかったわけではない。テレビやネットで見ていた東京の光景。でも、実際にその真ん中に放り込まれると、想像とはまるで違った。


「ゆりえちゃん! こっちこっち!」


聞き慣れた声が、雑踏の中から飛んでくる。

振り向くと、手を大きく振っているノムさんと、事務所スタッフ数名の姿があった。にこにことした笑顔に、ゆりえの肩から、ふっと力が抜ける。


「よく来たねえ! 長旅お疲れさま!」


「……あ、ありがとうございます……」


声は小さく、ほとんど消え入りそうだったが、それでもしっかり頭を下げた。


車で向かった先は、ノムさんの事務所「ブラックキャププロダクション」。

都内のビルの一角。ガラス張りのエントランスに足を踏み入れた瞬間、再び緊張がぶり返す。


会議室に通され、スタッフが一列に並ぶ。


「じゃ、改めて挨拶しようか」


ノムさんに促され、ゆりえは立ち上がった。

だが、疲労と緊張が一気に押し寄せ、頭が真っ白になる。


「あ……あの……氷見、ゆりえ……です……」


声は震え、目線は床。

言葉は途中で途切れ、深く頭を下げたまま動けなくなってしまった。


――やっちゃった。


ゆりえ自身がそう思った、その瞬間。


スタッフたちは、内心で顔を見合わせていた。


「……普通に可愛いけど」

「……地味だな」

「……おとなしい」


誰も声には出さないが、第一印象はほぼ一致していた。

垢抜けていない。華やかさも、今のところは見えない。よくいる地方の素朴な子、という評価だ。


その空気を、ぶち壊したのが――ノムさんだった。


「いやあ! 見たか君たち! これだよこれ!」


突然、両手を広げて高らかに笑う。


「この子はね、グラビアアイドル界に地殻変動を起こす子だ! ワハハハ!」


会議室が、一瞬で静まり返る。


――来た。

――野村ラッパ。


スタッフ全員の脳内で、同じ言葉が浮えだ。


ノムさんは昔からそうだ。

惚れ込んだ新人が出ると、必ずと言っていいほど大風呂敷を広げる。その派手さから、業界ではいつしか「野村ラッパ」と呼ばれるようになった。


「……また吹き荒れてるな」

「……今日は強風注意報だな」


誰かが小声でつぶやき、別の誰かが肩をすくめる。


確かにノムさんの慧眼は本物だ。

これまで何人ものグラビアアイドルを世に送り出し、女優として成功した者もいる。


だが同時に――

当たり外れも多い。

途中で心が折れて逃げ出した子、消えていった子も、数え切れないほど見てきた。


「まあ……様子見だな」

「悪い子じゃないけど」


スタッフの期待値は、正直低かった。


そんな空気をまるで気にしない様子で、ノムさんはゆりえの肩にぽんと手を置く。


「大丈夫。君は必ず来る」


その言葉に、ゆりえは顔を上げた。

不安と戸惑いの中で、唯一、真っ直ぐに自分を見てくれる大人がいる。その事実だけが、心の支えだった。


――信じてくれる人が、一人でもいる。


それで、十分だった。


会議室の窓から見える東京の空は、思ったよりも広かった。

この場所で、何が起きるのかは、まだ誰にも分からない。


ノムさんの期待と、スタッフの冷めた視線。

その大きなギャップの真ん中で、越中富山から来た原石は、静かに息をしていた。


この日、誰も知らなかった。

数年後、この「野村ラッパ」が、決してホラではなかったことを。


物語は、まだ始まったばかりだった。

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