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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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404/457

雪解け線路、春行き。――越中から東京へ、氷見ゆりえの出発

三月。

越中富山の春は、いつも一拍遅れてやって来る。屋根の影にはまだ雪が残り、潮の匂いを含んだ冷たい風が、港町の朝をきりりと引き締めていた。


氷見ゆりえは、新高岡駅のホームに立っていた。

薄手のコートの内側で、胸の鼓動がやけに大きく聞こえる。これから先のことを考えようとすると、期待と不安が同時に押し寄せてきて、頭の中が忙しくなる。それでも、足元は不思議と落ち着いていた。


「ほんとに行くんだなぁ」


声をかけてきたのは、同級生の友人たちだった。

卒業式からまだ数日。制服姿の名残を引きずるように、皆で集まって見送りに来てくれたのだ。


「行ってこいよー!」

「東京でも、ゆりえはゆりえだからな!」

「困ったら、いつでも帰ってこい!」


笑顔で手を振る声の中に、少しだけ滲む寂しさ。

ゆりえはそれを見て、胸の奥がきゅっとなった。泣かない、と決めていたのに、目の奥が熱くなる。


「ありがとう。……行ってきます」


短い言葉に、これまでの十八年分の時間が詰まっていた。


少し離れたところで、母がハンカチを目に当てていた。

もう、声をかけるたびに涙が溢れてしまうらしく、何も言えずに首を縦に振るだけだ。中学校教諭の姉は、そんな母の肩を支えながら、落ち着いた声で言った。


「大丈夫。ゆりえなら、ちゃんとやれる」


その言葉は、いつも通り淡々としていたけれど、確かな温度があった。

ゆりえは深くうなずいた。


父は、少し離れた場所で腕を組んだまま、こちらを見ていた。

相変わらずぶっきらぼうで、表情も硬い。だが、目だけはじっと娘を追っている。


「……体、壊すなよ」


それだけ言って、視線を逸らす。

それが、精一杯だったのだと、ゆりえには分かった。


「うん。行ってきます」


その一言で、十分だった。


発車ベルが鳴る。

ゆりえは荷物を持ち直し、新幹線のドアをくぐった。窓際の席に座り、シートに身を沈めると、急に現実味が増してくる。


――本当に、東京へ行くんだ。


新高岡駅がゆっくりと後ろへ流れていく。

見慣れた景色。雪解けの田畑。遠くに霞む山並み。港町の風景。


すべてが、少しずつ遠ざかっていく。


胸の奥に、ぽっかりと穴が開いたような気がした。

それでも、その穴の向こう側には、まだ見ぬ世界が待っている。そう思うと、不思議と背筋が伸びた。


ゆりえは、膝の上で手をぎゅっと握りしめる。

怖くないと言えば嘘になる。でも、逃げたいとは思わなかった。


東京。

何が待っているかは分からない。

うまくいく保証もない。


それでも――。


「行ってみなきゃ、始まらないよね」


小さく呟くと、車内のガラスに自分の顔が映った。

少し緊張した表情。だけど、その奥には、確かな決意があった。


列車は速度を上げ、越中の景色をぐんぐんと置き去りにしていく。

春へ向かう一本の線路の上で、氷見ゆりえの新しい物語が、静かに動き出していた。


彼女はまだ、原石のままだ。

磨かれるかどうかは、これからの選択次第。


けれど――

この日、確かに一歩を踏み出した。


雪の国から、春の都へ。

期待と不安を抱いたまま、それでも前を向いて。


新幹線は、東京を目指して走り続けていた。

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