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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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397/460

内定はゴールじゃない――未完成ヒロイン・小野寺彩音、まだ助走中!

川崎市麻生区。

坂が多くて、緑が多くて、駅前はそこそこ栄えているが一歩入ると住宅街、という「だいたい真面目な人が住んでいる街」で、小野寺彩音は今日も走っていた。


朝ランである。


「戦隊ヒロインは体力勝負だから!」


という理由で始めたランニングだが、もはや理由はどうでもよくなっている。

内定。

その二文字が出てから、彩音の生活は明らかに変わった。


まだ正式加入ではない。

制服も支給されていない。

イベントにも「付き添い枠」でしか入れない。


それでも彩音の頭の中では、もう完全に戦隊ヒロインの一員だった。


「彩音ちゃん、最近走りすぎじゃない?」

朝食を作りながら母が心配そうに言うと、彩音は即答する。


「だって、ヒロインは走るでしょ?」


何を根拠に、とは誰も聞かない。

父も新聞を読みながら「まあ、怪我だけはするなよ」とだけ言って、そっと見守る。

この家はだいたい、そういう距離感でできている。


そんな彩音が、心の底から憧れているのが、同居している従姉――阿部柚葉だった。


長い手足。

雪のような白い肌。

都会的なのに、時々どぎつい秋田弁。


そして何より、「自分の立ち位置を分かっている」あの感じ。


「柚葉姉みたいになりたい」


彩音がそう口にしたとき、柚葉は一瞬だけ間を置いてから、静かに言った。


「それは、やめた方がいい」


その言葉は優しかったが、逃げ道はなかった。


「私の真似をしても、彩音は強くならない。

 ヒロインは“誰かになる”仕事じゃなくて、“自分で立つ”仕事だから」


彩音はその夜、布団の中でずっと考えた。


じゃあ、自分はどんなヒロインなんだろう。


元気なだけ?

真っすぐなだけ?

勢いだけ?


考えれば考えるほど、答えは出なかった。


ヒロ室に出入りすれば、完成形みたいなヒロインがゴロゴロいる。

理知的な人もいれば、圧倒的なカリスマもいる。

全部を見て、全部に憧れて、全部に追いつけない。


「私、まだ何者でもないな……」


そう呟いた彩音に、柚葉はコーヒーを差し出しながら言った。


「だから、いいんだよ」


「え?」


「荒削りで、未完成で、伸びしろしかない。

 それ、いま一番の武器だから」


その言葉に、彩音は少しだけ救われた。


翌日も彩音はヒロ室に顔を出した。

相変わらず「内定者なのに常にいる子」扱いだが、誰も追い返さない。


杉山ひかりは微笑んで「頑張ろうね」と声をかけてくれるし、

館山みのりは「彩音ちゃんは真っすぐでいいよ」と言ってくれる。


波田顧問は相変わらずだ。


「おう彩音ちゃん、元気そうじゃねえか。

 その目だ、その目。まだ伸びるな」


その一言で、彩音の背中はまた少し軽くなった。


分かっている。

まだスタートラインにすら立っていないことも。

でも、確実に前には進んでいる。


走りすぎて怒られて、

やる気出しすぎて柚葉に止められて、

それでもまた走る。


完成には程遠い。

だけど、止まらない。


未完成であることを、恥じない。

未完成だからこそ、期待される。


小野寺彩音、高校一年生。

戦隊ヒロイン――内定者。


本当の物語は、これから始まる。

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