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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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391/464

教えない姉と、勝手に育つ内定者 ――秋田美人の沈黙が、未来を起動した日――

小野寺彩音は、もう迷っていなかった。


 川崎市麻生区の朝。

 制服姿で玄関を出る前に、彩音はスマホのカレンダーを確認する。


「放課後ランニング30分、腹筋100回、イメトレ10分……よし」


 高校一年生にして、進路は完全に「戦隊ヒロイン一本」。

 大学? 就職?

 それは「もしも」の世界の話である。


 すでに彩音の頭の中では、

 高校卒業=ヒロイン現場入り

 という等式が成立していた。


「彩音、朝ごはん食べていきなさい」


 母の声に、彩音は振り返る。


「プロは体が資本だからね!」


 まだ“プロ”ではない。


 だが、本人の気持ちは完全に一員だった。


 その日の夕方、彩音は阿部柚葉の部屋にいた。

 相変わらず、無駄なものが一切ない整然とした空間。


 柚葉はソファに座り、静かにお茶を飲んでいる。


「ゆず姉!」


 彩音は勢いよく切り出した。


「戦隊ヒロインとして一番大事な心構えって何ですか?」


「……」


「やっぱり覚悟ですか?」


「……」


「それとも責任感?」


「……」


「あと、ファンとの距離感とか!

 立ち振る舞いとか!

 現場での心の持ち方とか!」


 柚葉は、黙って湯のみを置いた。


「彩音」


「はいっ!」


「今、何個質問した?」


「……えーっと、7個です!」


「多い」


 それだけ言って、柚葉はまた黙る。


 彩音は一瞬フリーズした。


「……あの、答えは……?」


「出てる」


「え?」


「その質問の仕方」


 彩音は首をかしげる。


「質問しすぎ、ってことですか?」


「自分で動く前に、

 正解をもらおうとしてる」


 彩音はドキッとした。


 柚葉は淡々と続ける。


「ヒロインはね、

 誰かに正解をもらう仕事じゃない」


「……」


「現場で、

 “今どうするか”を自分で決める」


 彩音は黙り込む。


 そこへ、ちょうどメッセージが入った。


『彩音ちゃん、最近どう?』

 送り主は杉山ひかりだった。


 彩音はすぐに返信する。


『めちゃくちゃやる気です!

 心構え教えてください!』


 数分後。


『うーん……無理しすぎてない?

 でもね、大丈夫だよ。

 彩音ちゃんはちゃんと見てるから』


 ふわっとした返事だった。


「……ひかりさんも、

 あんまり具体的なこと言ってくれません」


 彩音が少し不満げに言うと、

 柚葉は小さく頷いた。


「それが答え」


「ええ!?」


「教えないのが、

 一番伸びるときもある」


 彩音は頭を抱える。


「戦隊ヒロイン、

 難しすぎません!?」


「簡単だよ」


「どこがですか!」


「自分で決めるだけ」


 彩音は、しばらく黙ったまま考えた。


 そして、ふと気づく。


(あれ……

 私、勝手にやってること、

 結構あるな……)


 ランニングも、

 筋トレも、

 イベントの動画見返しも。


 誰かに言われたわけじゃない。


 全部、自分で決めた。


「……私、

 もう走り出してますよね」


「うん」


 柚葉はそれだけ言った。


 その夜、彩音は両親の前で宣言した。


「私、高校卒業したら

 本気で戦隊ヒロインやるから」


 父は箸を止め、母は少し驚いた顔をする。


「彩音……本気なの?」


「うん。

 途中でやめる気、ない」


 両親は顔を見合わせた。


 心配がないわけじゃない。

 けれど、目の前の娘の目は、

 これまで見たことがないほど真っ直ぐだった。


「……体だけは大事にしなさい」


 それが、両親なりの精一杯の応援だった。


 部屋に戻った彩音は、スマホを見ながらつぶやく。


「よーし……

 もっと頑張ろう」


 翌朝から、ランニングの距離は伸び、

 トレーニングのメニューは増えた。


 あまりにやる気が過ぎて、

 数日後、柚葉が一言だけ言う。


「彩音」


「はいっ!」


「それ以上やると、

 壊れる」


「……え?」


「次は、ブレーキの話」


 彩音はキョトンとした。


 覚醒は始まったばかり。

 だが、アクセルだけでは走れない。

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