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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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390/488

内定者なのに“付き添い扱い”──運営ルールが追いつかない日

その日のイベント会場は、埼玉県久喜市。

 都心から電車で一本、ショッピングモールと市民文化会館が仲良く並ぶ、ほどよく地方感のある街だ。地元密着イベントには定評があり、戦隊ヒロインの集客力を試すにはちょうどいい。


 朝の搬入口は、すでにごちゃついていた。


「出演者はこちらですー」

「控室は奥ですー」

「関係者パス見せてくださいー」


 そんな中、二人組が現れる。


 一人は、規格外の秋田美人・阿部柚葉。

 もう一人は、やや緊張した表情の高校生――小野寺彩音。


 受付スタッフが名簿を確認して首をかしげた。


「えーっと……阿部さんは出演者で……こちらの方は……?」


 彩音が一歩前に出て、元気よく言う。


「戦隊ヒロイン内定者です!」


 受付スタッフのペンが止まる。


「……内定、者?」


 微妙な沈黙。

 スタッフは柚葉を見る。

 柚葉は何も言わない。ただ、立っている。


 それだけで空気が一段階、静かになる。


「あ、あー……では、とりあえず関係者として……」


 こうして、

 正式ヒロインの柚葉は堂々と通過し、

 内定者の彩音は“付き添い枠”で通されるという、

 運営ルール的にどうなのか分からない処理がなされた。


 歩きながら、彩音が小声で言う。


「ゆず姉……私、話は通ってるはずなんですけど……」


「うん」


「面談も終わってますし……」


「知ってる」


「でも今、完全に“連れの人”でしたよね……?」


「現場あるある」


 納得できないが、反論もできない。


 控室に入ると、空気は一変した。


「あっ、彩音ちゃん!」


 声をかけたのは、杉山ひかりだった。

 柔らかく、安心感の塊のような存在。


「今日も来てくれたんだね。頑張ろうね~」


「は、はいっ!」


 彩音の顔が一気に明るくなる。


 続いて、館山みのりが笑いながら言う。


「もう普通に仲間だよね?

 制服ないだけで」


「ですよね~」と西園寺綾乃がはんなり相槌を打つ。

「控室におるの、当たり前みたいになってはるえ」


 赤嶺美月は腕を組んで言った。


「もう内定とか関係あらへんやろ。

 現場に馴染んだもん勝ちや」


 完全に“中の人”扱いだった。


 彩音は内心、胸が熱くなる。


(私……もう、ヒロインの輪の中にいる……)


 一方、柚葉は控室の端で静かに座っている。

 喋らない。

 動かない。

 だが、誰も逆らえない存在感だけがそこにある。


 進行表が無言で柚葉の前に置かれ、

 スタッフが判断に迷うと、自然と柚葉を見る。


 理由は誰にも説明できない。


 イベント直前、再び裏動線で混乱が起きる。


「えーっと……内定者の方は客席側で……」


「いや、その子は裏です」


 なぜか小宮山琴音が即答した。


「でも段取り上は……」


「問題ないです。私が把握してます」


 甲州弁混じりの断言。

 誰も逆らえない。


 結果、彩音はまた“付き添い枠”で通過した。


 舞台袖で彩音がため息をつく。


「私、いつまで“連れ”なんでしょう……」


 柚葉は少し考えてから言う。


「現場の流れってね、

 肩書きより先に空気が決まる」


「それ、フォローですか?」


「多分」


 その瞬間、坂井まどかが顔を出す。


「彩音ちゃん、次の立ち位置一緒に確認しよ」


「はいっ!」


 動きは完全にヒロインのそれだった。


 イベント後、彩音は達成感に満ちていた。


「今日、すごく楽しかったです!」


 ひかりが優しく言う。


「うん。無理しなくていいけど、

 彩音ちゃん、ちゃんと向いてるよ」


 柚葉はその背中を見ながら、静かに思う。


(この子、

 そのうち“付き添いなのに主役”になるな)


 肩書きや運営ルールが追いつくのは、

 きっと、もう少し先だ。

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