葛城司令官、津へ行くだけの説明で一時間
――内閣府 戦隊ヒロイン推進室・会議室。
机の上には三枚の資料。
タイトルは「三重県津市イベント移動行程(暫定案)」。
しかし中身はどう見ても国会提出資料のように難解だった。
「えー、つまりですねぇ……今回のイベント開催地であります三重県津市におきましては、えー、交通の便というものが非常に……その、複層的な意味合いを持っておりましてぇ……」
話しているのはもちろん、我らが事なかれ司令官・葛城正男(45)。
吹田出身、北摂なまりの関西弁で、話は遅く、長く、そして要領を得ない。
「要するに、津まで行くんやろ?」と、美月がうんざり顔で割り込む。
だが葛城、動じない。
「ええ、まぁ、結果的にはそうなんですがね。ただ“行く”と一言で申しましても、移動の過程における安全性、効率性、経済性を総合的に勘案しますと――」
「もうええっちゅーねん!」と美月が机を叩いた。
「たかが移動やろ!? 大阪難波から近鉄特急で津まで行って、駅からタクシー乗る、それだけやろ!?」
「いや、そこをな、美月くん。そこを“それだけ”で済ませたらあかんのや」
葛城はなぜか真顔。
「近鉄特急にも種類がありましてな、“アーバンライナー”か“ひのとり”かで車両性能が異なりまんねん。どっちを選ぶかによって、座席のリクライニング角度もちゃうんや」
「知らんがな!!」美月の怒鳴り声が会議室に響いた。
隣の彩香も腕を組み、眉を吊り上げる。
「そんなん、はよ指定券取ったら済む話やろ! 駅弁どこで買うかまで会議せなあかんのかい!」
「まぁまぁ……」と綾乃がため息をつきながら、
にっこり笑って言った。
「ええ時計してはりますなぁ、ほんま、時間だけはよう過ぎていきますなぁ」
会議室にクスクス笑いが広がる。
だが葛城はその皮肉を理解していない。
「せやろ? これ、功績表彰でもろたやつや」
と腕時計を見せてドヤ顔。
「……もう無理や」と彩香が天井を仰ぎ、
美月は「この人、敵よりやっかいや」とぼやいた。
ようやく話が終わった時、時計の針は昼を回っていた。
結論:大阪難波から近鉄特急で津へ、駅からタクシー。
……最初の三分で済む内容に、一時間強。
綾乃がポツリ。
「ほんに、司令官は話で人を疲れさせる天才どすな」
その日、葛城司令官は上機嫌で言った。
「ええ会議やったな、ほんまスムーズや」
美月と彩香の同時ツッコミが炸裂した。
「どこがやねん!!!」
――こうして、津市イベント前から、津々浦々疲れ果てたのであった。




