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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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389/474

主役は妹です(※会場は姉に落ちました)——逆姉ムーブ、発動——

その日、イベント運営側はひそかに期待していた。


「今日は“規格外の秋田美人”が来るらしい」

「無音で場を支配するって噂の?」

「そうそう、阿部柚葉さん」


 ステージ脇では、すでにスタッフがざわついている。


 だが――

 本人は、まったく違う方向を見ていた。


「彩音、緊張してる?」


 阿部柚葉は、従姉妹の小野寺彩音の前にしゃがみ込み、目線を合わせていた。


「……ちょっとだけ」

 彩音は正直に答える。

 戦隊ヒロイン“内定(仮)”とはいえ、今日はあくまで同行。

 ステージに立つ予定など、なかった。


「大丈夫」

 柚葉はにこりと笑う。

「今日は、彩音の日だから」


「え?」


 その一言で、嫌な予感がしたのは小春だけだった。


「……待って。

 今、“彩音の日”って言った?」


 柚葉は頷いた。


「はい。

 せっかく来たので」


「せっかく来たので!?

 ここ、ヒロインのイベントなんですけど!?」


 だが柚葉は動じない。


「だからです」


 意味がわからない。

 だが、この時点で止められる人間は誰もいなかった。


 本番。


「さあ! 本日のゲスト!

 規格外の秋田美人ヒロイン、阿部柚葉さ――」


 MCの声が、途中で止まった。


 なぜなら、

 柚葉が一歩引いたからだ。


 そして――

 すっと、彩音の背中を押した。


「……え?」


 会場が一瞬フリーズする。


「今日は、こちらの方をご紹介します」

 柚葉が静かに言う。

「私の従姉妹です」


 ざわっ。


「え、誰?」

「一般人?」

「聞いてないぞ?」


 彩音は完全に固まっていた。


「ゆ、ゆず姉……!?」

 小声で抗議する。


「大丈夫」

 柚葉は耳元で囁く。

「そのままでいいから」


 その“そのまま”が一番怖い。


 だが、柚葉はもう前に出ない。

 一歩後ろ。

 完全な“脇役ポジション”。


 なのに。


 視線は、すべて柚葉に集まっている。


 彩音が自己紹介を始める。


「えっと……

 川崎市麻生区から来ました、小野寺彩音です……」


 声が少し震える。


 すると――

 後ろに立つ柚葉が、静かに頷いた。


 それだけで、彩音の声が安定する。


「高校一年生で……

 戦隊ヒロインに憧れてます」


 拍手。


 だが、拍手の質がおかしい。


「可愛い〜」

「でも後ろの人、何……」

「姉、圧強くない?」


 柚葉は何もしていない。

 ただ、立っているだけ。


 なのに、

 “背景として強すぎる”。


 小春は控室で頭を抱えた。


「前に出てないのに、全部持ってかれてる……」


「逆です」

 遥室長が冷静に言う。

「前に出ないからこそ、支配してます」


 トークが進む。


 彩音が一生懸命話す。

 練習してきたことを、噛みしめるように。


 そのたびに、

 柚葉が一歩も動かず、静かに見守る。


 まるで――

 “安全装置”。


 失敗しても、転んでも、

 必ず後ろに柚葉がいる。


 会場が、それを理解し始める。


「あの子、安心して喋れてるな」

「後ろの姉が強すぎる」

「守護霊?」


 最後の質問コーナー。


 観客が聞いた。


「彩音ちゃん、

 将来どうなりたいですか?」


 彩音は一瞬、柚葉を見る。


 柚葉は、何も言わず、微笑んだ。


「……戦隊ヒロインになって、

 誰かの背中を押せる人になりたいです」


 その瞬間、

 会場が静まり返った。


 そして、大きな拍手。


 柚葉は、ほんの少しだけ目を細めた。


 イベント後。


「……やられました」

 小春は白旗を上げる。

「主役を前に出して、

 自分は何もしてないのに、一番印象に残るとか」


「狙ってませんよ」

 柚葉は本気で不思議そうだ。

「彩音が頑張ってたので」


 彩音は目を輝かせて言った。


「ゆず姉が後ろにいたから、

 全然怖くなかった!」


 それを聞いた瞬間、

 波田顧問が豪快に笑った。


「こりゃ参ったな!

 前に出ねぇで人を育てるタイプか!

 一番タチが悪い!」


 柚葉は首を傾げる。


「……悪いですか?」


「最高だよ」

 波田顧問は即答した。

「しかも無自覚。

 育成側として、満点だ」


 こうして語り継がれる。


阿部柚葉——

 主役を譲り、場を支配し、

 妹を前に出して、自分が伝説になる女。


 彩音はその背中を見ながら、確信していた。


(やっぱり……

 ゆず姉、すげぇ)


 なお、

 次のイベントの台本には、

 こっそりこう書き足されていた。


※阿部柚葉は「後ろに立たせないこと」。

※前に出さなくても危険。

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