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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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388/459

しゃべらないのに優勝——秋田美人、無音で場を制圧する——

 その日、ヒロ室はいつになく騒がしかった。


「えー、本日のイベントですがぁ!」

 小春がホワイトボードを叩きながら声を張る。

「地方自治体合同フェア! ファミリー層多め! ステージは一回二十分! フリートーク比率高め!」


 この条件を聞いた瞬間、何人かのヒロインが微妙な顔をした。

 要は「喋って盛り上げろ」という無茶振りである。


「……新人は厳しいやつやな」

 美月が腕を組んでぼそっと言う。


 その視線の先にいたのが、規格外の秋田美人ヒロイン――阿部柚葉だった。


 柚葉は、台本を静かにめくっている。

 表情は穏やか。

 だが、どこか“音がない”。


「柚葉、大丈夫?」

 小春が声をかけると、柚葉は顔を上げ、にこりと笑った。


「はい。楽しみです」


 その一言で終わり。

 追加説明なし。

 意気込みゼロ。


「……逆に不安なんやけど」

 美月が小声で言うと、周囲がうなずいた。


 そして迎えた本番。


 会場は地方イベントらしく、元気な司会、賑やかなBGM、子どもの声。

 いつもの「ガヤガヤした空気」だった。


「さあ続いてのゲスト!

 みちのく秋田からやってきた、戦隊ヒロイン――阿部柚葉さんです!」


 拍手。

 歓声。

 ……そして、柚葉が一歩、ステージに出た瞬間。


 音が消えた。


 正確に言えば、消えたように感じた。


 ざわついていた客席が、ふっと静まる。

 子どもが喋るのをやめ、カメラのシャッター音だけが目立つ。


 柚葉は何も言わない。

 ただ、すっと姿勢を正し、ゆっくり一礼しただけ。


 ――それだけ。


 なのに、視線が全て彼女に吸い寄せられた。


「……え?」

 控室のモニターを見ていた真帆が声を漏らす。


「まだ一言も喋ってませんよね?」


「うん」

 遥室長も瞬きを忘れている。

「でも、完全に場が柚葉さんのものですね」


 小春は焦った。

 本来ならここで一言挟んで流れを作るはずだった。


 だが――

 入る隙がない。


 柚葉が、静かに顔を上げる。

 ゆっくり、客席を一周見渡す。


 誰も喋らない。

 誰も動かない。


 そして、ようやく口を開いた。


「……こんにちは」


 それだけ。


 たった五文字。


 だが、その瞬間。


「うわぁ……」

「声まで綺麗……」

「何この人……」


 小声の感嘆が、さざ波のように広がった。


 柚葉は続ける。


「今日は、ありがとうございます。

 秋田から来ました、阿部柚葉です」


 声は低くも高くもない。

 張り上げてもいない。

 なのに、全員に届く。


 完全な“無音支配”。


 小春は心の中で叫んでいた。

(なにこれ!? 私、いらんやつ!?)


 フリートークに入っても、状況は変わらなかった。


 柚葉は無駄に喋らない。

 一文が短い。

 間が長い。


 だが、その“間”に観客が勝手に反応する。


「秋田は、雪が多いです」

(へぇ〜)

「でも、人は温かいです」

(おぉ〜)


 一言ごとに、会場が勝手に盛り上がる。


 美月が控室で呆然と呟いた。


「……なにあれ。

 一番エネルギー使ってないのに、一番支配力あるやん」


「喋ってないのに、全部持っていってますね」

 ひかりが苦笑する。


 イベント終了後。


 スタッフ控室は、なぜか静かだった。


「柚葉さん……」

 小春が恐る恐る声をかける。

「今日、どうでした?」


 柚葉は少し考えてから答えた。


「……楽しかったです。

 皆さん、よく聞いてくださったので」


「いや、あれは……」

 小春は言葉を探す。

「“よく聞いた”とかじゃなくて……」


 遥室長が、はっきり言った。


「阿部さん。

 あなた、喋らなくても場を制圧できるタイプです」


 柚葉はきょとんとする。


「そうなんですか?」


「そうです」

 真帆が深くうなずいた。

「しかも無自覚なのが、一番厄介です」


 その夜、SNSにはこう書かれた。


――今日のイベント、柚葉さんだけ空気違った

――喋らないのに印象が一番残る

――音がしないのに、圧がある

――秋田、美人すぎる


 本人はというと、帰りの電車でスマホを見ながら首を傾げていた。


「……静かにしてただけなんですけど」


 誰もが思った。


――それが一番、怖い。


 こうして、

“無音で場を支配する秋田美人”阿部柚葉の伝説が、ひっそりと始まったのであった。

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