内定(仮)の従姉妹と、グラビアに突進する尖った秋田美人
富士川研修センターでの体験入隊研修を終えた翌日から、
**小野寺彩音(16歳)**は明らかに変わった。
姿勢がいい。
走るフォームが無駄に良い。
そして何より――
「私、もう半分ヒロインですよね?」
という根拠ゼロの自信があった。
ヒロ室に出入りするたび、彩音は自分を「関係者」ではなく
**「未来の戦隊ヒロイン」**として扱っている節がある。
そんな彩音の様子を、少し離れたところから見ていた
阿部柚葉は、内心かなり焦っていた。
(ヤバい……完全に置いていかれとる)
秋田県にかほ市出身。
色白で手足が長く、顔面が完成されすぎている規格外の秋田美人。
その自覚はあるが、だからこそ身内から尊敬されたい欲も強い。
「彩音、あたしももっと頑張るから」
その“頑張る”が、柚葉の場合、
たまに斜め上に全力投球になる。
にかほ市は、誰もが知る大手電子部品メーカーの工場がある土地だ。
兄も親戚も、その工場勤務。
「技術」「大胆」「尖る」――そんな空気の中で育った柚葉は、
ある日ヒロ室で爆弾を落とした。
「私、水着グラビアやりたいです」
一瞬、時が止まった。
遥室長は瞬きし、
小宮山琴音はメモを取る手を止め、
波田顧問はコーヒーを吹きそうになった。
「……急だな」
「でも戦隊ヒロインって、強さも華も必要じゃないですか?」
理屈は通っている。
理屈は。
遥室長はしばらく考え、
懇意にしている大手出版社の名前を静かに口にした。
「……話だけ、通してみましょう」
こうして、
戦隊ヒロイン史上でも異例のスピードで
阿部柚葉のグラビア企画は動き出した。
撮影当日。
スタジオに入った瞬間、スタッフがざわついた。
「白っ……」
「肌、反射してない?」
「顔、完成しすぎじゃない?」
水着姿の柚葉は、
長身細身なのにどこかダイナマイト。
しかも表情が落ち着きすぎている。
カメラマンが思わず言った。
「……現役戦隊ヒロイン、恐ろしいな」
発売日。
雑誌は即日話題になった。
「この秋田美人誰だ」
「顔面強すぎ」
「戦隊ヒロインってこんなレベルなの?」
SNSは軽くざわつき、
ヒロ室フロントは慌てて対応に追われた。
そんな中、
彩音は自分の部屋で雑誌を開き、
ページをめくって固まった。
「……」
数秒後。
「やっぱ、ゆず姉すげぇ」
声は小さかったが、
そこには完全な尊敬があった。
「私、まだ全然だなぁ……」
柚葉は照れながら頭を撫でる。
「焦らなくていい。彩音は彩音で、ちゃんとヒロイン向きだよ」
その背中は、
さっきまでの“従姉妹”ではなく、
少しだけ“先輩ヒロイン”だった。
ヒロ室の片隅で、
波田顧問がぼそっと言う。
「……あの姉妹、将来やばいな」
富士川で赤鉛筆をはめていた少女と、
グラビアで世間をざわつかせた秋田美人。
戦隊ヒロインの未来は、
今日もちょっとだけ規格外だった。




