内定(仮)を本気にする16歳、富士川で赤鉛筆と戦う
「高校卒業したら、ウチに来な」
その一言を、正式内定通知書・朱印三つ付きくらいの重みで受け止めた少女がいた。
川崎市麻生区在住、高校一年生・小野寺彩音。
規格外の秋田美人ヒロイン・阿部柚葉の従姉妹であり、現在“将来の戦隊ヒロイン(本人談)”である。
ヒロ室に顔を出すたび、彩音の目はキラキラしていた。
制服姿のヒロインたち、慌ただしく飛び交うスケジュール表、妙に静かな緊張感。
そこへある日、隼人補佐官が穏やかに声をかけた。
「折角だから……富士川の新人隊員研修、体験してみませんか」
彩音の中で、内定(仮)が内定(確)に一段近づいた音が鳴った。
数日後。
彩音と柚葉は静岡県富士市にいた。
製紙工場の煙突が並ぶ街。都市対抗野球の優勝チームを輩出したこともある“工業とスポーツの街”。
市内を流れる富士川は、東日本と西日本の電力周波数を分ける、日本でもちょっと不思議な川だ。
そして、この地には戦隊ヒロイン中央研修の要衝――富士川研修センターがある。
「……思ってたより地味ですね」
彩音の第一声は正直だった。
ヒーロー映画のような訓練場を想像していたが、そこにあったのは体育館、会議室、謎の作業机。
研修は朝から容赦がなかった。
ランニング、基礎体力測定、姿勢指導。
ここまでは想像の範囲内だったが――問題は午後からだ。
「次は精神鍛錬です」
渡されたのは、赤鉛筆とキャップ。
やることはひたすら、キャップをはめる。
外す。
はめる。
並べる。
さらに袋貼り。造花作り。
完全に昭和の内職。
「……これ、意味あるんですか?」
思わず小声で柚葉に聞くと、柚葉は真顔で答えた。
「意味がわからないことを、真面目にやるのが研修だって」
途中で辞退する“ヒロイン候補”も実際にいた。
体力ではなく、この温度差に心が折れるのだ。
だが彩音は、赤鉛筆を置かなかった。
手は少し震えていたが、顔は前を向いていた。
夕方。
一日体験を終え、隼人補佐官が感想を尋ねる。
「どうでしたか?」
彩音は一拍置き、はっきり言った。
「どんなに厳しい訓練や研修でも、耐え抜きます」
その言葉に、隼人補佐官は静かに頷いた。
「いいですね。その心意気」
研修生たちとの交流も、彩音にとっては宝物だった。
年齢も立場も違うが、同じ“なりたい”を抱える仲間。
帰り道、彩音の足取りは朝より軽かった。
「やっぱり……戦隊ヒロイン、なりたいです」
柚葉は笑って言った。
「うん。焦らなくていい。でも、今の気持ちは大事にしな」
富士川の夕焼けが、二人の背中を染めていた。
赤鉛筆のキャップより、ずっと温かい色で。
内定(仮)は、まだ仮。
でも覚悟は、もう本物だった。
——小野寺彩音、今日も前のめり。




