ゆず姉が強すぎて、妹分が勝手に戦隊入りしかける件
川崎市幸区のイベントで、阿部柚葉が鮮烈すぎるデビューを飾ったその日。
客席の端で、目を丸くして口を半開きにしていた人物がいる。
「……ゆず姉、すげぇ」
高校生の従姉妹、小野寺彩音である。
家では普通にジャージでウロウロして、
冷蔵庫のプリンを勝手に食べて、
「彩音、それ私の」
「あとで補充するから」
という会話をしている、あの柚葉が。
今、
戦隊ヒロインとして、
幸区を制圧している。
「……別世界やん」
この瞬間、彩音の中で何かが芽生えた。
はっきり言うと、憧れである。
それからというもの、彩音は柚葉のイベントに勝手に同行するようになった。
「今日も行くの?」
「うん、暇だし」
「制服の試着あるけど」
「見るだけだから!」
見るだけ、という言葉はだいたい嘘である。
控室に顔を出し、
楽屋でお茶を飲み、
いつの間にかヒロ室のソファに座っている。
「……この子、誰?」
「柚葉の従姉妹です」
「あ、そうなの。自然すぎてスタッフかと思った」
順応力が異常に高い。
そんな彩音は、妙なポジションを確立していく。
黒崎茉莉花が連れてくる一人息子・大翔の面倒を見る係だ。
「だいちゃん、走らない!」
「はーい!」
「はい、おやつは一個だけ!」
気づけば、ヒロイン達からの評価はこうだ。
「彩音ちゃん、助かるわ」
「下手なスタッフより動いてる」
「この子、将来有望じゃない?」
本人はまだ制服も着ていないのに。
特に目をかけたのが、
理知的で面倒見の良い、ひかりとみのり――グレースフォースの二人だった。
「戦隊ヒロインってね、華やかに見えるけど」
「覚悟がいるんだよ」
控室の隅で、真面目な話が始まる。
「人前に立つってことは、
言葉も行動も、全部見られるってことだから」
彩音は、真剣に頷いた。
「……はい」
「でも、憧れる気持ちは大事」
「それが一番の原動力になる」
その目は、もう本気だった。
その様子を見ていた人物がいる。
波田顧問だ。
「おい、嬢ちゃん」
いきなり声をかけられ、彩音はビクッとする。
「はいっ!」
「いい目してるじゃねぇか」
じろじろと見られる。
「気に入った」
「……え?」
「高校卒業したら、ウチ来な」
――早すぎる。
「えっ、今、内定ですか!?」
「内定だよ」
「軽っ!」
「べらんめぇ、縁は大事にしろってんだ」
周囲は爆笑。
本人だけが状況を理解できていない。
さらに話は止まらない。
「一緒に活動できるの、楽しみですね」
遥室長が微笑み、
小宮山琴音も頷く。
「制服もね、今から考えてもいいかも」
そこへ、福岡から上京していたスタイリスト兼ヒロイン・浜崎莉央が加わる。
「彩音ちゃん細身やけん、シルエットが綺麗なの
めっちゃ似合いそうやね。」
「え、私、もう採用前提ですか!?」
柚葉は横で苦笑いしていた。
(……私より先に戦隊に馴染んでない?)
こうして、
規格外の秋田美人ヒロインの影で、
もう一人の未来のヒロインが、
勝手に育成され始めていた。
彩音はまだ高校生だ。
だがもう、戦隊の日常の中にいる。




