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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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382/460

川崎市幸区が雪国になる日 ― 規格外の秋田美人、初降臨

 川崎市幸区。

 多摩川と鶴見川に挟まれ、工場と住宅街と下町情緒が妙に同居する、実に“生活感の強い”エリアだ。大型商業施設もあれば、昔ながらの商店街も残る。地味だが住みやすい。

 ちなみに、この小説を書いている作者の出身地でもある。地元愛はあるが、今日はそれどころではない。


 その幸区のイベント広場が、朝からざわついていた。


「今日、新人ヒロイン出るらしいよ」

「秋田から来た美人って聞いた」

「また大げさな煽りだろ?」


 そう思っていた観客は、すぐに己の浅はかさを知ることになる。


 ステージに立ったMC・月島小春が、いつになくニヤニヤしていた。


「さぁ皆さん、お待たせしましたー!

 本日、戦隊ヒロイン初登場!

 みちのく秋田からやってきた――

 規格外の秋田美人の登場だ〜☆」


 煽りが雑でデカい。

 だが、その直後――


 ステージに現れた瞬間、会場の空気が凍った。


 長い。

 まず脚が長い。

 そして腕も長い。

 全体のバランスがモデルそのもの。


 雪のように透き通った白い美肌。

 整いすぎて逆に現実味のない顔立ち。

 無駄な動きのない、静かな立ち姿。


「……え」

「……本物だ」

「写真よりヤバくない?」


 ざわめきではない。

 ため息が、会場を支配した。


 阿部柚葉。

 規格外の秋田美人ヒロイン、ここに初降臨。


 柚葉は一礼し、落ち着いた声で挨拶した。


「はじめまして。

 秋田県にかほ市出身、阿部柚葉です。

 今日は川崎市幸区に来られて嬉しいです」


 この時点で、もう完成度が高すぎる。


 フリートークに入っても、崩れない。


「秋田は今の季節、空気が澄んでいて、

 朝の山がすごく綺麗なんです」

「比内地鶏も、日本酒も、美味しいものが多いので、

 ぜひ遊びに来てください」


 完璧。

 淀みがない。

 媚びない。


 そして小春が、ここぞとばかりに振る。


「じゃあ柚葉ちゃん!

 せっかくだから、秋田弁で一言!」


 一瞬の間。

 柚葉は微笑んでから、さらっと言った。


「へば、また来てけれな」


 ――爆発。


「うわぁぁぁぁ!!」

「可愛い!!」

「ズルい!!」


 川崎市幸区のイベント会場が、完全に秋田に侵略された瞬間だった。


 この光景を、舞台裏で眺めていた人物がいる。

 澪だ。


 幸区在住。

 この地の顔役的ヒロイン。

 後援会の面々は、お馴染みのサックスブルーのTシャツ姿で陣取っている。


 ……が。


「……あれ?」

「澪ちゃん、今日出ないんだっけ?」

「いや、出てるけど……」


 視線は、完全に柚葉へ。


 後援会のおじさまたちも、

 おばさまたちも、

 全員、柚葉に釘付け。


 だが当の澪は、涼しい顔だった。


(まぁ、今日は新人の回だしね)


 心が広い。

 というより、達観している。


 一方、会場の片隅では、目を丸くした少女がいた。


「……ゆず姉、スゲぇ」


 従姉妹の彩音である。


 いつも家では、

 普通に洗い物して、

 普通に冷蔵庫を開けて、

 「それ食べるの?」と言ってくる、あの柚葉。


 それが今、

 幸区を制圧している。


「……別人じゃん」


 柚葉は最後まで落ち着いたまま、

 深く一礼してステージを降りた。


 幸区の空気は、しばらく戻らなかった。


 この日、川崎市幸区は記録された。


 雪国が、確かにここに来た日として。


 そして誰もが思った。


「……これは、規格外だ」と。

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