秋田美人、大家族育ち ― 阿部柚葉という静かな騒音
阿部柚葉が「落ち着いている」「大人びている」「静かな秋田美人」と評されるたびに、彼女の脳裏には必ず同じ光景が浮かぶ。
――にかほ市の実家。
――常に誰かが喋っている居間。
――どこからともなく聞こえる笑い声と足音。
(……あの環境で育った私が、よく“静か”って言われるよね)
柚葉は、秋田県にかほ市出身。
日本海と鳥海山に挟まれた、風が強くて空の広い町で育った。
家族構成を説明しようとすると、いつも途中で諦める。
兄弟が多い。
従兄弟も多い。
親戚がやたら多い。
正月や盆になると、
「これ誰の子だっけ?」
「そっちのおじさん、親戚だよね?」
という会話が普通に飛び交う。
静寂とは無縁。
順番待ちの人生。
そんな環境で育った柚葉は、
「喋らなくても周囲を見て動く」
「一歩引いて全体を把握する」
というスキルだけが異様に磨かれた。
結果――
静かに見える。
現在、柚葉は有名私大に在学中。
だが一人暮らしではない。
母方の親戚である小野寺家に居候している。
場所は川崎市麻生区。
静かな住宅街で、秋田とはまるで空気が違う。
初めて来たとき、柚葉は思った。
(……音、少なっ)
だが、小野寺家はすぐに柚葉を“居候”ではなく“家族”として扱った。
「柚葉ちゃん、朝ごはん一緒に食べよ」
「今日は何時に帰るの?」
「夕飯、何がいい?」
距離が近い。
だが、嫌ではない。
そして何より、そこには“妹”がいた。
高校生の従妹、彩音。
人懐っこく、よく喋り、感情表現が豊か。
「ゆず姉さーん!」
「ゆず姉、これ見て!」
「ゆず姉、今日の弁当どう思う!?」
彩音は柚葉のことを、必ず「ゆず姉」と呼ぶ。
血の繋がりはあるが、ほぼ姉妹。
服を貸し合い、進路相談をし、夜中にこっそりお菓子を食べる。
柚葉は彩音に対してだけ、少しだけ表情が緩む。
「……食べ過ぎると太るよ」
「えー!ゆず姉みたいに細くなりたいのに!」
「それは生活環境が違うだけ」
淡々と返すが、彩音は満足そうだ。
そんな柚葉が、戦隊ヒロインとして初めて紹介された日。
ヒロ室では、いつもの評価が並んだ。
「落ち着いてる」
「品がある」
「静かで安心感がある」
それを聞きながら、柚葉は内心で思う。
(もし、うちの実家見たら、みんな評価変わるだろうな……)
だが彼女は言わない。
騒がしい家庭も、静かな今の生活も、どちらも自分だと知っているからだ。
彩音はというと、柚葉がヒロインになったと知った瞬間、目を輝かせた。
「ゆず姉、ヒロインって、あのヒロイン!?」
「……そうだけど」
「ヤバい!学校で自慢していい!?」
「ほどほどにね」
その夜、彩音は友達に言ったらしい。
「うちのゆず姉、戦隊ヒロインなんだけど、家では普通に洗い物してる」
なぜかその一言が、柚葉の評価をさらに上げた。
派手じゃない。
騒がない。
でも、どこか安心する。
大家族の中で育ち、
今は静かな街で生活し、
ヒロインとしては淡々と役割を果たす。
阿部柚葉という存在は、
**騒がしい環境で培われた“静かな強さ”**そのものだった。
そして彩音は今日も言う。
「ゆず姉、ほんとすごいよね!」
「……普通だよ」
その“普通”が、
戦隊ヒロインの中では、少しだけ特別なのだった。




