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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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381/458

秋田美人、大家族育ち ― 阿部柚葉という静かな騒音

阿部柚葉が「落ち着いている」「大人びている」「静かな秋田美人」と評されるたびに、彼女の脳裏には必ず同じ光景が浮かぶ。


 ――にかほ市の実家。

 ――常に誰かが喋っている居間。

 ――どこからともなく聞こえる笑い声と足音。


(……あの環境で育った私が、よく“静か”って言われるよね)


 柚葉は、秋田県にかほ市出身。

 日本海と鳥海山に挟まれた、風が強くて空の広い町で育った。


 家族構成を説明しようとすると、いつも途中で諦める。


 兄弟が多い。

 従兄弟も多い。

 親戚がやたら多い。


 正月や盆になると、

「これ誰の子だっけ?」

「そっちのおじさん、親戚だよね?」

という会話が普通に飛び交う。


 静寂とは無縁。

 順番待ちの人生。


 そんな環境で育った柚葉は、

「喋らなくても周囲を見て動く」

「一歩引いて全体を把握する」

というスキルだけが異様に磨かれた。


 結果――

 静かに見える。


 現在、柚葉は有名私大に在学中。

 だが一人暮らしではない。


 母方の親戚である小野寺家に居候している。

 場所は川崎市麻生区。

 静かな住宅街で、秋田とはまるで空気が違う。


 初めて来たとき、柚葉は思った。


(……音、少なっ)


 だが、小野寺家はすぐに柚葉を“居候”ではなく“家族”として扱った。


「柚葉ちゃん、朝ごはん一緒に食べよ」

「今日は何時に帰るの?」

「夕飯、何がいい?」


 距離が近い。

 だが、嫌ではない。


 そして何より、そこには“妹”がいた。


 高校生の従妹、彩音。

 人懐っこく、よく喋り、感情表現が豊か。


「ゆず姉さーん!」

「ゆず姉、これ見て!」

「ゆず姉、今日の弁当どう思う!?」


 彩音は柚葉のことを、必ず「ゆず姉」と呼ぶ。


 血の繋がりはあるが、ほぼ姉妹。

 服を貸し合い、進路相談をし、夜中にこっそりお菓子を食べる。


 柚葉は彩音に対してだけ、少しだけ表情が緩む。


「……食べ過ぎると太るよ」

「えー!ゆず姉みたいに細くなりたいのに!」

「それは生活環境が違うだけ」


 淡々と返すが、彩音は満足そうだ。


 そんな柚葉が、戦隊ヒロインとして初めて紹介された日。

 ヒロ室では、いつもの評価が並んだ。


「落ち着いてる」

「品がある」

「静かで安心感がある」


 それを聞きながら、柚葉は内心で思う。


(もし、うちの実家見たら、みんな評価変わるだろうな……)


 だが彼女は言わない。

 騒がしい家庭も、静かな今の生活も、どちらも自分だと知っているからだ。


 彩音はというと、柚葉がヒロインになったと知った瞬間、目を輝かせた。


「ゆず姉、ヒロインって、あのヒロイン!?」

「……そうだけど」

「ヤバい!学校で自慢していい!?」

「ほどほどにね」


 その夜、彩音は友達に言ったらしい。


「うちのゆず姉、戦隊ヒロインなんだけど、家では普通に洗い物してる」


 なぜかその一言が、柚葉の評価をさらに上げた。


 派手じゃない。

 騒がない。

 でも、どこか安心する。


 大家族の中で育ち、

 今は静かな街で生活し、

 ヒロインとしては淡々と役割を果たす。


 阿部柚葉という存在は、

**騒がしい環境で培われた“静かな強さ”**そのものだった。


 そして彩音は今日も言う。


「ゆず姉、ほんとすごいよね!」

「……普通だよ」


 その“普通”が、

戦隊ヒロインの中では、少しだけ特別なのだった。

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