清楚は忙しい。四国は勝手に燃えている
阪急電車という乗り物は、不思議な魔力を持っている。
乗っているだけで、人生が少しだけきちんとして見えるのだ。
三好さつきは、その魔力を自然体でまとっていた。
朝、伊丹市の静かな住宅街。
きちんとアイロンのかかったブラウスに、落ち着いた色味のスカート。
駅までの道を、背筋を伸ばして歩くその姿は、通学というより「絵」だった。
「……あの子、たぶん、育ちが違う」
近所の八百屋の奥さんが、今日も確信に満ちた顔でそう呟く。
実際、さつきの一人暮らしは非の打ちどころがなかった。
部屋は常に整理整頓。
洗濯物はためない。
自炊もする。
なぜか冷蔵庫の中に、賞味期限切れのものが存在しない。
「……一人暮らしで、これは逆に怖いな」
初めて部屋を見た安岡真帆が、素直な感想を漏らしたほどである。
遥室長と真帆は、さつきを見てすぐに意見が一致した。
「この子、プライベートでも青少年の見本ですね」
「はい。戦隊ヒロインの“正解ルート”です」
褒めすぎである。
しかし当の本人は、そんな評価をどこ吹く風で受け流していた。
「戦隊ヒロインは……大学在学中までって決めてるんです」
打ち合わせの席で、さつきは穏やかにそう言った。
周囲が一瞬、静まる。
「その後は?」
「アナウンサーを目指します。キー局か、関西の準キー局で」
迷いは一切なかった。
隣で聞いていた杉山ひかりが、少しだけ視線を泳がせる。
「……さつきちゃん、ブレないね」
「ひかりさんは?」
「……私は、ちょっと迷ってる」
さつきは微笑んだ。
「それも、素敵だと思います」
この清楚、強い。
一方そのころ。
徳島県当局と高知県当局は、完全に別の次元に突入していた。
「四国代表は、三好さつきで決まりじゃろ」
「何を言うちゅうが! 四国初は神代なつめじゃき!」
どこでどう話がこじれたのか、
“四国代表ヒロイン論争”が勝手に勃発。
徳島は清楚路線。
高知は突進路線。
「タイプが違うき、別にええがやけんど……」
「いやいや、象徴性というものがあるでしょう」
なぜか愛媛県と香川県も巻き込まれ、
いつの間にか「四国バトルロワイアル」と呼ばれる事態に。
なお、当事者のさつきは——
「へぇ……そうなんですね」
完全に他人事だった。
彼女は今日も、発声練習をし、ニュース原稿を読み、
自分の夢に向かって淡々と階段を上っている。
清楚で、上品で、しかし芯は揺るがない。
戦隊ヒロインとしての時間を、
青春の一ページとして、きちんと楽しみながら。
四国が燃えていることなど、
知らぬ顔で。




