清楚が二人、並んだら漫才――紀伊水道でツッコミが跳ねた日
和歌山市。
紀伊半島の玄関口であり、海と城とみかんが同居する街。関西の中ではどこかのんびりしていて、南国の空気がほんのり混じる。和歌山城を背にしたイベント広場では、この日「戦隊ヒロイン南近畿交流ステージ」が開催されていた。
登壇メンバーは西日本勢の精鋭たち。
MCは辣腕フロント・安岡真帆。
出演ヒロインは、赤嶺美月、坂井まどか、白浜麻衣、三好さつき、そして土佐の突進娘・神代なつめ。
この並びを見た真帆は、内心でつぶやいた。
(……今日は事故るな)
まずは和歌山出身の白浜麻衣が挨拶。
「和歌山へようこそ~。今日は紀州の舞姫として、しっかり盛り上げます!」
客席から温かい拍手。地元強し。
続いて、三好さつき。
清楚、透明感、品行方正。
立った瞬間に、空気が一段階きれいになる。
「徳島県鳴門市出身の三好さつきです。今日は和歌山の皆さんにお会いできて嬉しいです」
すでに好感度は天井。
ここで、さつきが続けた。
「和歌山県と徳島県は、フェリーで海上交通で結ばれています。紀州の舞姫・麻衣ちゃんは、私にとって妹みたいな存在です」
――ドン。
和歌山の客席が一気に沸いた。
「わかっとるやん!」
「海の向こうの親戚や!」
麻衣も即反応。
「そうそう! 紀伊水道を挟んで隣同士やもんね。徳島と和歌山、今日は共闘やで~!」
二人で手を振ると、会場は完全に味方についた。
真帆が頷く。
(これは上手い。清楚なのに、距離の詰め方がプロ)
問題は、その直後だった。
真帆が次の流れを振る。
「では同じ四国勢として、神代なつめさんも一言お願いします」
なつめ、満面の笑みでマイクを掴む。
「はい! 高知の神代なつめじゃき! 徳島も和歌山も、全部ひっくるめて近所じゃろ!」
空気が変わる。
さつき、にこやかにフォロー。
「……一応、県は違いますけど」
なつめ、即返す。
「細かいこと言うたらいかん!」
――客席、爆笑。
ここからだった。
「さつきはな、見た目はお嬢さんやけど中身は普通じゃき」
「なつめさんは、見た目通り勢いだけです」
「勢いは正義!」
「正義でも限度があります」
完全に漫才。
美月が袖で腹を抱える。
「なぁ真帆さん、台本にこんなんありました?」
真帆、無言で首を横に振る。
坂井まどかが冷静に分析。
「清楚ツッコミと突進ボケの構図ですね。完成度が高いです」
麻衣が煽る。
「二人とも、もう一回やって!」
なつめが身振り手振りで叫ぶ。
「ほらさつき、こうドーンと行くんじゃき!」
さつき、困った顔で一歩下がり、
「……それは、舞台が壊れます」
――ドッ。
和歌山市のイベント会場は、完全に「四国漫才ステージ」と化した。
最後、真帆が締めに入る。
「えー、本日の結論です。
三好さつきさんは清楚です。
神代なつめさんは突進です。
並ぶと、なぜか漫才になります」
拍手喝采。
楽屋に戻った後、さつきがぽつり。
「……私、そんなにツッコミ役でしょうか」
なつめが肩を組む。
「才能じゃき」
麻衣が笑う。
「紀伊水道越えの名コンビやね」
こうして、
清楚なのに漫才になる徳島ヒロインと
勢いだけで押し切る高知ヒロインは、
西日本イベント界隈で“セット売り不可避”の存在となった。
――和歌山の海風は、その日、やたらと賑やかだった。




