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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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375/471

はんなり崩壊――左京区に阿波の雷が落ちた日

京都市左京区。

 銀閣寺に哲学の道、大学と研究所が点在し、街全体が「静かに考える」空気をまとっている区域である。観光客は多いが、どこか声が低い。歩く速度もゆっくり。雑踏ですら品がある――そんな左京区のイベント広場で、その日は「戦隊ヒロイン地域交流フェスタ」が開催された。


 そしてそこに、最大の地雷が仕込まれていた。


 清楚担当、三好さつき。

 透明感、落ち着き、清廉潔白。

 ヒロ室内では「黙って立っているだけで会場が格式化する女」と評される存在である。


 この日の共演者は西日本組。

 はんなり京ことばの西園寺綾乃。

 播州弁で切れ味鋭い西川彩香。

 土佐の突進娘・神代なつめ。

 そして進行役に安岡真帆。


 リハーサルの段階では、完璧だった。


「本日はお越しいただき、おおきに」

 綾乃の京ことばが空気を整え、


「皆さん、盛り上がっていきましょー!」

 彩香が勢いを足し、


「左京区、元気あるがか!」

 なつめが音圧で場を押す。


 最後に、さつき。

「よろしくお願いいたします」


 それだけで、場が締まる。


「……今日は事故らへん気ぃするな」

 彩香が珍しく安心した顔をした。


 事件は、本番中盤のトークコーナーで起きた。


 テーマは「地元あるある」。

 綾乃が上品に振る。


「さつきさん、鳴門のええところ、教えてもらえますやろか?」


 さつきは微笑み、いつも通り答えようとした。

 ……その時。


 客席最前列で、子どもがポカリのボトルを落とした。

 乾いた音が、静かな左京区の空気を切り裂く。


 反射的に、さつきの口が動いた。


「――あっ、危なっ! 気ぃつけなあかんでぇ!」


 一瞬、沈黙。


 次の瞬間。


「……今の?」

 彩香が固まる。


 綾乃が、ゆっくり首をかしげた。

「……さつきさん?」


 さつき、気づいた。

 阿波弁が、出た。


「い、いえ……あの……」

 取り繕おうとするが遅い。


 客席の空気が、ガラガラと音を立てて崩れた。


「え、今の方言?」

「清楚キャラちゃうん?」

「急に親戚のお姉ちゃん出てきたぞ」


 ざわつく会場。


 なつめが大爆笑。

「出たき! 本性!」


 彩香が腹を押さえる。

「ちょ、京都でそれはアカンて!」


 綾乃だけが、静かに微笑んだ。

「……よろしおすやん。人間味があって」


 さつき、観念した。


「……あの……普段は出ませんけど……驚いたら、出ます……阿波弁」


 ここで完全にスイッチが入った。


「もう一回言って!」

「阿波弁バージョンで自己紹介して!」


 観客のテンションが一気に跳ね上がる。


 なつめが煽る。

「ほら、綾乃の京ことばと対決じゃき!」


 綾乃、受けて立つ。

「ほな、いきまひょか」


 即席方言コーナー開幕。


「三好さつき、徳島県鳴門市出身です。よろしゅう頼むでぇ」

「西園寺綾乃どす。おおきに」


 京と阿波が交互に飛び、会場は完全にお祭り状態。


「さっきまで式典やったのに!」

 真帆が頭を抱える。


 終了後、控室。


「……やってしまいました」

 さつきが反省すると、


 綾乃が優しく言った。

「清楚なまんまで、人間らしさも見えましたえ。今日は勝ちどす」


 なつめが肩を叩く。

「ええがよ。阿波弁は武器じゃき」


 その日、左京区のイベントは

「清楚ヒロインの方言解禁事件」として語り継がれることになる。


 ――清楚は崩れた。

 だが、その瞬間、三好さつきは本当の意味で観客の心を掴んだのだった。

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