清楚が過ぎて式典になる――寝屋川、突然の格式革命
三好さつきの初登場イベントは、大阪府寝屋川市だった。
淀川の支流が静かに流れ、住宅街と商業施設がほどよく混ざる、いかにも「生活がちゃんとしている」街。京阪電車が行き交い、学生もファミリーも多く、イベントはだいたい肩の力が抜けている。たこ焼き屋の湯気と、商店街の呼び込みがBGMになる――そんな土地柄である。
だから誰も想像していなかった。
この街で、勝手に格式が生まれるとは。
午前十時、会場入り。
控室に現れた三好さつきは、白を基調にした戦隊ヒロイン制服をきっちり着こなし、背筋が一本、すっと伸びていた。透明感が過剰。落ち着きが過剰。気配が静かすぎる。
同席していた西日本組――
播州弁で切れ味鋭い西川彩香、
土佐弁フルスロットルの神代なつめ、
はんなり京ことばの西園寺綾乃、
そして司会進行役に回る安岡真帆。
全員、第一声が出なかった。
「……あの」
真帆が言葉を探していると、彩香が小声で囁く。
「ちょ、真帆さん。これ……市の式典ちゃいますよね?」
「イベントだよ」
即答したが、真帆自身も半信半疑だった。
リハーサルが始まる。
司会の地元MCが、さつきに向かって自己紹介を振った瞬間――
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。三好さつきと申します」
声量、控えめ。
語尾、揺れなし。
礼、深さ適正。
その瞬間、会場の空気が半音下がった。
MCが無意識に姿勢を正す。
音響スタッフがフェーダーをそっと下げる。
警備員が「……こちら、来賓動線を確認します」と言い出す。
「ちょ、待って」
なつめが思わず割り込んだ。
「ここ、寝屋川やき? 国会やないき?」
しかし時すでに遅し。
控室から出てきた市の関係者が、なぜか名札を付け直し始めていた。
開演。
観客はいつも通り、家族連れと学生が中心。だが――
拍手が、やけに揃っている。
「では、三好さつきさん、ご挨拶を」
さつきが一歩前へ。
軽く一礼。
「本日は、寝屋川市の皆さまとお会いできて光栄です」
光栄。
この二文字が決定打だった。
客席最前列のご年配が、なぜか背筋を伸ばす。
隣の親子が小声になる。
屋台の兄ちゃんが、焼いていたフランクフルトをそっと置く。
「なんでみんな、声ちっちゃなってるん?」
彩香が呆然。
なつめが耐えきれず、マイクを奪った。
「寝屋川のみんな! 今日は祭りじゃき! 堅い話はいらんがよ!」
するとさつきが、慌てて一歩下がり、なつめに小声で。
「ありがとうございます……助かります……」
助かります。
なつめ、完全に負けた顔になる。
後半、トークコーナー。
綾乃が上品に振る。
「さつきさん、関西でのイベントはいかがどす?」
「皆さまが温かくて……とても居心地が良いです」
この瞬間、司会が「居心地が良いですね!」と復唱し、
なぜか拍手が起きた。
「いや、今の拍手ポイントちゃうやろ」
彩香がぼやく。
イベント終了後、控室。
「反省点ある?」
真帆が聞くと、さつきは首を横に振った。
「特に……いつも通りでしたが……」
「それが問題やねん」
彩香となつめが同時に言った。
なつめが腕を組む。
「この子、清楚が標準装備やき。場所が勝手に格式化するがよ」
真帆はメモを取りながら、頷いた。
「……三好さつき、現場を黙って格上げするタイプ」
綾乃がにっこり。
「これはこれで、強力どすなぁ」
寝屋川市のイベントは、翌日「品のある異例の盛り上がり」として話題になった。
誰も狙っていないのに、格式だけが独り歩きした一日。
その中心で、さつきはただ、静かに立っていただけだった。
――清楚すぎるヒロインは、現場を式典に変える。
戦隊ヒロイン史に、また一つ、妙な伝説が増えた。




