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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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374/471

清楚が過ぎて式典になる――寝屋川、突然の格式革命

 三好さつきの初登場イベントは、大阪府寝屋川市だった。

 淀川の支流が静かに流れ、住宅街と商業施設がほどよく混ざる、いかにも「生活がちゃんとしている」街。京阪電車が行き交い、学生もファミリーも多く、イベントはだいたい肩の力が抜けている。たこ焼き屋の湯気と、商店街の呼び込みがBGMになる――そんな土地柄である。


 だから誰も想像していなかった。

 この街で、勝手に格式が生まれるとは。


 午前十時、会場入り。

 控室に現れた三好さつきは、白を基調にした戦隊ヒロイン制服をきっちり着こなし、背筋が一本、すっと伸びていた。透明感が過剰。落ち着きが過剰。気配が静かすぎる。


 同席していた西日本組――

 播州弁で切れ味鋭い西川彩香、

 土佐弁フルスロットルの神代なつめ、

 はんなり京ことばの西園寺綾乃、

 そして司会進行役に回る安岡真帆。


 全員、第一声が出なかった。


「……あの」

 真帆が言葉を探していると、彩香が小声で囁く。

「ちょ、真帆さん。これ……市の式典ちゃいますよね?」


「イベントだよ」

 即答したが、真帆自身も半信半疑だった。


 リハーサルが始まる。

 司会の地元MCが、さつきに向かって自己紹介を振った瞬間――


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。三好さつきと申します」


 声量、控えめ。

 語尾、揺れなし。

 礼、深さ適正。


 その瞬間、会場の空気が半音下がった。


 MCが無意識に姿勢を正す。

 音響スタッフがフェーダーをそっと下げる。

 警備員が「……こちら、来賓動線を確認します」と言い出す。


「ちょ、待って」

 なつめが思わず割り込んだ。

「ここ、寝屋川やき? 国会やないき?」


 しかし時すでに遅し。

 控室から出てきた市の関係者が、なぜか名札を付け直し始めていた。


 開演。

 観客はいつも通り、家族連れと学生が中心。だが――

 拍手が、やけに揃っている。


「では、三好さつきさん、ご挨拶を」


 さつきが一歩前へ。

 軽く一礼。


「本日は、寝屋川市の皆さまとお会いできて光栄です」


 光栄。


 この二文字が決定打だった。


 客席最前列のご年配が、なぜか背筋を伸ばす。

 隣の親子が小声になる。

 屋台の兄ちゃんが、焼いていたフランクフルトをそっと置く。


「なんでみんな、声ちっちゃなってるん?」

 彩香が呆然。


 なつめが耐えきれず、マイクを奪った。

「寝屋川のみんな! 今日は祭りじゃき! 堅い話はいらんがよ!」


 するとさつきが、慌てて一歩下がり、なつめに小声で。

「ありがとうございます……助かります……」


 助かります。


 なつめ、完全に負けた顔になる。


 後半、トークコーナー。

 綾乃が上品に振る。

「さつきさん、関西でのイベントはいかがどす?」


「皆さまが温かくて……とても居心地が良いです」


 この瞬間、司会が「居心地が良いですね!」と復唱し、

 なぜか拍手が起きた。


「いや、今の拍手ポイントちゃうやろ」

 彩香がぼやく。


 イベント終了後、控室。


「反省点ある?」

 真帆が聞くと、さつきは首を横に振った。

「特に……いつも通りでしたが……」


「それが問題やねん」

 彩香となつめが同時に言った。


 なつめが腕を組む。

「この子、清楚が標準装備やき。場所が勝手に格式化するがよ」


 真帆はメモを取りながら、頷いた。

「……三好さつき、現場を黙って格上げするタイプ」


 綾乃がにっこり。

「これはこれで、強力どすなぁ」


 寝屋川市のイベントは、翌日「品のある異例の盛り上がり」として話題になった。

 誰も狙っていないのに、格式だけが独り歩きした一日。


 その中心で、さつきはただ、静かに立っていただけだった。


 ――清楚すぎるヒロインは、現場を式典に変える。

 戦隊ヒロイン史に、また一つ、妙な伝説が増えた。

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