よさこいは高知、地団駄は徳島――土佐の突進娘が四国を揺らした日
神代なつめが戦隊ヒロインとして定着したころ、
四国には目に見えない地殻変動が起きていた。
震源地は、もちろん高知県。
そして――
最も揺れていたのが、隣の徳島県だった。
高知では連日、なつめの話題一色だった。
朝のローカルニュース、昼のワイド番組、夕方の情報枠。
「四国初の戦隊ヒロイン!」
「土佐弁全開の突進娘!」
「高知から全国へ!」
そのたびに、
スタジオのパネルには
坂本龍馬、岩崎弥太郎と平成の吉●小百合さん言われた清純派女優の写真が
それとなく並べられ、
なつめの写真が当然のように混ざっていた。
高知県民はうなずく。
「まあ、そりゃそうじゃろ」
だが――
徳島県民は、うなずかなかった。
徳島県内の喫茶店。
鳴門の渦潮が見える道の駅。
阿波踊り会館の控室。
どこでも同じ会話が繰り返されていた。
「高知ばっかりずるいでぇ」
「なんで四国初が高知なん?」
「徳島からも出してええんちゃうん?」
ついには地元紙が、
「次は徳島からヒロインを」
という見出しを躊躇なく打ち始める。
完全に火がついた。
一方その頃、
当の本人――神代なつめはというと、
富士川の研修センターで
いつも通り突進していた。
理世が丁寧に戦術を説明している横で、
なつめは腕を組み、三十秒で我慢の限界を迎える。
「長いき!」
そう言ってホワイトボードに突撃し、
矢印をババッと引き、
「ここドーン、ここバーン、最後ドカンじゃき」
理世は憮然とする。
だが結果は――合っている。
隼人補佐官は、
もはや何も言わずに頷くだけだった。
そんなある日、
ヒロ室フロントに一本の電話が入る。
「徳島県観光協会です」
「ええ、はい」
「……はい?」
受話器を置いた真帆は、
遠い目をした。
「徳島が……ヒロインを本気で欲しがってる」
しかも、
「高知に負けっぱなしは許されない」
「四国バランスを考慮すべき」
「徳島にもヒロインがいるはず」
完全に対抗意識だった。
この話を聞いたなつめの反応は、
驚くほどあっさりしていた。
「へえ、そうなが?」
「徳島もええやん」
「みんなでやれば楽しいき」
高知側のスタッフが慌てる。
「いやいや、ライバル意識とかないの?」
なつめは首をかしげる。
「別にないき」
「踊るなら一緒に踊った方がええじゃろ」
この瞬間、
徳島県関係者の地団駄は
さらに激しさを増した。
結局、
徳島では「ヒロイン輩出プロジェクト」が
半ばノリと勢いで立ち上がり、
説明会が開催され、
応募要項が二転三転し、
会議は迷走する。
一方高知では、
「まあ、そのうち出るじゃろ」
という空気で、
なつめは相変わらず突進していた。
ヒロ室の最終評価は、
実にシンプルだった。
神代なつめは、
計算できない。
制御できない。
予測できない。
だが――
現場が止まらない。
四国を巻き込み、
県境を越え、
対抗心すらエネルギーに変える。
その結果、
四国全体の存在感が
なぜか底上げされていく。
中締めとして、
真帆がぽつりと言った。
「徳島が動いたの、全部なつめのせいだよね」
隼人補佐官は苦笑し、
「本人は何もしてないつもりでしょうけど」
なつめは遠くで、
次の訓練に向かって走っている。
「考えるのは後じゃき!」
その声が、
今日もやたらと響いていた。
こうして、
土佐の突進娘・神代なつめは――
戦隊ヒロインの中で
四国を動かした存在として
確固たる地位を得た。
そして徳島では、
今日も誰かが地団駄を踏んでいる。
「次は、うちの番じゃ!」




