相性最悪、結果最良――理論派が突進を理解できない日
富士川研修センターの屋外訓練場。
今日の課題は二人一組での模擬戦闘訓練だった。
組み合わせ表を見た瞬間、
理世の眉がわずかに、しかし確実に動いた。
神代なつめ。
一方、なつめはというと、
「お、理世じゃん!
よろしくな!」
と、満面の笑みで手を振っている。
理世は一礼だけ返し、心の中で静かに呟いた。
(最悪の組み合わせです)
理世は慎重派だ。
敵の動線、遮蔽物、最悪ケース、撤退ルート。
想定は最低でも五通り。
一方、なつめは――
「とりあえず突っ込むき!」
想定は一つ。
それも前。
開始前ブリーフィング。
理世が地面に図を書きながら説明する。
「敵はこの位置に伏兵がいる可能性があります。
ここで突進すると――」
「じゃあ先に行くき!」
説明、遮断。
なつめ、スタートラインから突進。
「ちょっ――!」
理世が止める間もなく、
なつめは全力で前進。
理世の脳内に浮かぶ。
・側面攻撃
・背後奇襲
・挟撃
・包囲
・撤退不能
――最悪のフルコース。
だが。
なつめは、
想定されていた伏兵ポイントへ、
真正面から突っ込んだ。
「おらあああ!」
勢いで遮蔽物を越え、
伏兵役の訓練生が反応する前に制圧。
「……え?」
理世、目を見開く。
なつめは止まらない。
次の想定地点へ、
今度は斜めから突進。
「そこか! 見え見えじゃき!」
理世が想定していた最悪のケースが、
なつめの勢いによって次々と消えていく。
理世は後方支援に回りながら、
頭が追いつかない。
(……除去されている?
想定した危険要素が、すべて……)
最終局面。
理世が準備していた撤退ルートは、
そもそも使う必要がなかった。
訓練終了のホイッスル。
教官が結果を告げる。
「模擬敵、全滅。
被害ゼロ。
……非常に良い連携だ」
連携。
その言葉に、
理世は小さく咳払いをした。
休憩時間。
なつめは水を飲みながら笑っている。
「いやー、楽勝やったな!」
理世はしばらく沈黙し、
やがて理知的に、しかし明らかに拗ねた声で言った。
「……結果的には、合理的です」
なつめが振り向く。
「ほらな!」
「ですが」
理世、眼鏡を押し上げる。
「プロセスが理解できません。
危険回避が成立した理由が、
理論的に説明できない」
「勢いじゃき!」
即答。
「それは説明ではありません」
「でも勝ったき!」
理世、言葉に詰まる。
数秒の沈黙。
「……敗北を認めます」
淡々とした敗北宣言。
周囲で見ていたヒロインたちがざわつく。
「理世が負け認めたで!?」
「珍しすぎるやろ」
だが、理世は続けた。
「ただし。
あなたの行動原理は、
私の理解の範囲を超えています」
なつめは肩をすくめる。
「考えすぎじゃき。
敵は倒れた。
それでええやろ?」
理世は答えなかった。
ノートに一行、書き足す。
《神代なつめ:
結果は正しい。
理由は不明。
再現性、検証不能》
ページを閉じ、
静かにため息をつく。
理論派と突進派。
相性は最悪。
だが――
戦場では、
なぜか勝ててしまう。
理世がなつめを理解できる日は、
どうやら、
まだまだ来そうになかった。




