理論は長い、突進は早い――ホワイトボードは土佐弁で制圧された
富士川の研修センター、戦術会議室。
ホワイトボードの前に立つのは、知性派ヒロイン代表・理世だった。
腕を組み、視線は鋭く、資料は完璧。
ペンを握りしめ、淡々と語り始める。
「まず敵戦力を三つのユニットに分けて考えます。
第一波は陽動、第二波が本命、第三波は――」
ホワイトボードには矢印、円、破線、補足説明。
書いては消し、消しては補足。
論理は正確、理屈も破綻なし。
ただし――
長い。
会議開始からすでに二十分。
誰も口を挟めない空気。
みのりは姿勢を正したまま微動だにせず、
美月は「うん、うん」と言いながら内容を半分ほど放棄。
隼人補佐官は腕時計を一度見て、そっと目を逸らした。
そのときだった。
「……もうええか?」
低く、しかし妙に通る声。
全員が振り向いた先には、
椅子に浅く座り、腕をぶらぶらさせていた神代なつめ。
「まだ説明の途中ですが」と理世。
「いや、分かったき。
でもな――」
なつめ、立ち上がる。
「小難しい話は苦手じゃき!」
次の瞬間、
ホワイトボードへ突進。
理世が書いた戦術図の横に、
別の色のペンで豪快な線を引き始めた。
「ここが敵じゃろ?
で、こっちがウチら」
丸。
でかい丸。
「ほんでな、こう行って――」
ドン、と矢印一本。
「ごちゃごちゃ考えんで、
最初にガンッ!
あとは――」
さらに太い矢印。
「ドーン!」
会議室、沈黙。
図としては――
驚くほど、大体合っている。
理世の複雑な三段構えの理論が、
なつめの図では「ガン→ドン」の二工程に圧縮されていた。
隼人補佐官が思わず言う。
「……結果的に、同じだな」
みのりが頷く。
「動線、ほぼ一致してます」
美月が笑いを堪えながら補足。
「説明は雑やけど、要点は掴んどるな」
理世、ホワイトボードを凝視。
「……論理展開が、飛躍しすぎです」
「飛んだほうが早いき!」
即答。
「敵は待ってくれんきね。
考えよる間に殴られるがやったら、
先に殴ったほうが勝ちじゃろ?」
ロジックは無茶苦茶。
説明は乱暴。
理論書に書けば即却下。
だが――
戦場では正解。
理世は一瞬、言葉を失い、
そして静かにペンを置いた。
「……否定は、できません」
その声は、明らかに憮然としていた。
なつめは満足そうに椅子へ戻る。
「ほらな。
細かいことは、後で考えたらええき」
会議終了後。
理世は一人、ノートに書き込んでいた。
《神代なつめ:
論理構造は破綻している。
しかし結論は常に正しい。
対処法、未定》
その横で、なつめはお茶を飲みながら一言。
「頭使うのもええけど、
体動かすほうが早いき!」
こうして今日もまた、
理論は短縮され、
戦術は土佐弁で完成した。
理世の眉間のしわが、
しばらく消えなかったのは、
言うまでもない。




