報告する暇がなかったじゃき! ――土佐の突進娘、全国放送で正体がバレる――
戦隊ヒロインのイベント初登場。
ステージ袖で、神代なつめはいつも通りだった。
緊張?
不安?
そんなものは一切ない。
「まあ、なんとかなるろ」
その一言で、すべてを済ませる女である。
司会の合図とともに、なつめがステージ中央へ。
「どーもー!!
高知から来ました、神代なつめやき!!」
一拍の沈黙。
次の瞬間。
ドッ!!
会場が揺れた。
「四国初の戦隊ヒロイン?
知らん知らん!
でも、来たき頑張るでぇ!!」
拍手。
笑い。
なぜか親指を立てるおじさん。
質問コーナー。
「特技は?」
「勢い!」
「苦手なものは?」
「考えること!」
「意気込みを一言!」
「とりあえず前に出るき!!」
――全部、土佐弁。
会場は完全に掌握された。
この様子を、
高知のローカルテレビ局が大々的に特集した。
「四国初の戦隊ヒロイン誕生!」
「土佐弁全開の新星!」
スタジオも爆笑。
テロップが追いつかない。
そして――
その放送を、
高知市の実家で見ていた人たちがいた。
「……え?」
祖父、箸を落とす。
「……今の、なつめかえ?」
祖母、テレビに近づく。
父、絶叫。
「おいおいおい!!
あれ、うちの娘やないか!!」
母、慌てて電話を探す。
「なんで戦隊ヒロインになっちゅうがやき!?」
兄。
「ちょっと待て、
昨日まで千葉でファミレスやっちょったやろ!?」
妹。
「姉ちゃん、
いつ変身したが!?」
親戚一同、集結。
「なつめぇぇ!!」
「いつの間に!?」
「聞いちょらんぞ!!」
――全員、土佐弁。
さらに。
近所のおばちゃんが気づく。
「ちょっと!!
神代さんとこのなつめちゃん、
テレビ出ちゅう!!」
瞬く間に噂が広がり、
「なつめが戦隊ヒロイン?」
「マジで?」
「よさこい出るが?」
――町、騒然。
商店街では即席の祝賀ムード。
なぜか鳴り始める鳴子。
「なつめぇぇ!!」
「戻ってきたら踊るき!!」
――よさこい祭り並みの大騒ぎ。
一方その頃。
東京。
イベント終わりの楽屋で、
なつめのスマホが鳴り止まない。
「もしもし」
父の声、震えている。
「お前……
戦隊ヒロインになっちゅうがか?」
なつめ、あっさり。
「うん」
母、叫ぶ。
「いつから!?」
「最近」
祖父、後ろで怒鳴る。
「報告せんか!!」
なつめ、少し考えてから一言。
「……忙しかったじゃき」
沈黙。
そして――
「そんな理由あるかぁぁ!!」
家中の声が一斉に響いた。
それでも最後に、父は言った。
「まあ……
元気そうで何よりや」
なつめ、照れもせず。
「ほいたら、
次の現場あるき、切るで」
――ブツッ。
こうして。
土佐の突進娘・神代なつめは、
全国と地元を同時にザワつかせるヒロインとなった。
考えない。
報告しない。
だが、結果は残す。
高知の夜空に、
今日も鳴子の音が響く。
「なつめぇぇ!!
帰ってきたら一曲やき!!」
本人はまだ知らない。
次に帰省したら、
逃げ場がないということを。




