標準語、敗北。 ──国道16号線を制圧した土佐弁ファミレスの女──
千葉市内、国道16号線沿い。
誰もが一度は見たことのある、
あの有名ファミレスチェーンがひしめく激戦区に、
問題の店舗はあった。
ランチタイムはトラックドライバーと営業マン。
ディナータイムは家族連れと部活帰りの学生。
朝から夜まで休む暇なし。
そんな修羅場を、
一人で回している女がいた。
神代なつめ。
ホールに立てば、
「いらっしゃいませぇぇ!!
空いとる席、今すぐ案内するき!!」
洗い場に入れば、
「皿は溜めたら負けやき!
一気に流すでぇぇ!!」
キッチンに呼ばれれば、
「火ぃ強すぎ!
それ、焦げるがやき!!」
――全部、土佐弁。
この店では、
ホールも洗い場もキッチンも、
なつめが全部見る。
理由は簡単。
「忙しいき、
誰かに頼むより自分がやった方が早いがやき!」
論理は雑だが、結果は出す。
後輩指導も豪快だった。
「ミスしてもええ!
声出さん方が罪やき!」
新人は最初ビビる。
三日で慣れる。
一週間後には声がデカくなる。
問題は、
外国人留学生のアルバイトだった。
普通なら言葉の壁がある。
だが、この店では違った。
なつめは迷わず言った。
「分からんかったら、
とりあえず“いけるき!”って言うとき!」
結果。
「イケルキ!」
「マカセルトキ!」
「ダイジョブヤキ!」
――土佐弁が共通語になった。
SNSとグルメサイトは騒然。
・「元気すぎるファミレス」
・「土佐弁で応援される店」
・「なんか元気もらえる」
売り上げは右肩上がり。
隣のライバルチェーンを軽く蹴散らす。
しかし――
本部が黙っていなかった。
「全国画一的なサービスを守ってください」
「方言は禁止」
「標準語で接客してください」
なつめ、初めて理解不能の顔。
「……なんで?」
翌日から、
この店は別物になった。
「いらっしゃいませ」
「少々お待ちください」
「かしこまりました」
――静か。
客が減った。
ホールが止まった。
キッチンが詰まった。
グルメサイトの評価は急落。
・「元気がなくなった」
・「普通のファミレスになった」
・「あの土佐弁が良かったのに」
ついには、
本部に苦情が届く。
「土佐弁、復活させてください」
会議室で、
本部担当者が頭を抱えた。
「……例外、認めます」
「土佐弁、黙認で」
その瞬間。
「よっしゃあああ!!」
なつめの声が店内に響いた。
翌日。
「いらっしゃいませぇぇ!!
今日も元気に営業中やき!!」
客、戻る。
売り上げ、復活。
外国人スタッフ、土佐弁全開。
そして、
静かに変化する人物が一人。
館山みのりである。
「こちらのお席…
空いとるき」
「ドリンクバー、
向こうやき」
――完全に感染。
真帆の評価は一言だった。
「……現場破壊力、Aランク」
波田顧問は笑った。
「勢いだけで店一つ支配するとはな」
こうして。
国道16号線の一角に、
土佐弁が支配するファミレスが誕生し、
その中心にいた女は、
戦隊ヒロインとしてスカウトされることになる。
考えない。
止まらない。
だが、人を動かす。
それが――
土佐の突進娘・神代なつめ。
そして今日も、
みのりの口から自然に出る。
「次のお客さん、
案内するき」
――もう戻れない。




