声がデカけりゃ即採用! ──土佐の突進娘、ヒロ室に現る──
新橋ヒロ室のミーティングスペースは、この日、珍しく静かだった。
書類の山。鳴り止まない電話。
安岡真帆が無表情でスケジュールを整理し、遥室長がコーヒーをすする。
「……次のお友達紹介、誰やったっけ」
ぽつりと誰かが言った瞬間。
扉が開いた。
「どーもォォォォ!!
高知から来ましたァ!!
神代なつめ言いまぁぁす!!」
空気が、揺れた。
音圧で。
一瞬、
ヒロ室にいた全員の視線が、
館山みのりに突き刺さる。
みのりはいつもの標準語で、
淡々と補足した。
「……私の、バイト先の先輩です」
※責任を感じている顔ではない。
神代なつめは、
土佐弁丸出し、前のめり、笑顔全開。
「みのりちゃんには
いつも世話になっちゅうき!!
今日はよろしくお願いしまぁぁす!!」
その声量で、
ヒロ室の壁が一段階、古くなった。
この瞬間。
奥の椅子にどっかり座っていた
波田顧問が、腕を組んだまま一言。
「……よし」
全員「え?」
波田顧問、立ち上がる。
「採用だ」
真帆が即座に食い下がる。
「顧問、まだ面談すら──」
「いらねぇ」
遥室長が慌てる。
「いやいや、流石にそれは……」
波田顧問、即答。
「挨拶で腹から声出せるヤツは信用できる」
理屈が昭和。
なつめ、目を輝かせる。
「え!?
もう決まりですか!?」
「決まりだ」
「ありがとうございますッ!!」
その「ありがとうございます」で、
また一段階、壁が古くなった。
波田顧問は満足そうに頷く。
「最近なぁ、
上品で、理知的で、
空気読めて、
気配りできるヒロインばっかりだろ」
全員、心当たりがありすぎて黙る。
「それもいいがな」
一拍置いて。
「たまにはこういう
ノリと勢いだけのヤツが必要なんだよ」
太鼓判だった。
みのりが小さく呟く。
「……ですよね」
※最初から分かっていた顔。
一方、
神代なつめはもう、
自分がヒロインだと信じきっている。
「戦隊ヒロインって、
走るんですか!?
叫ぶんですか!?
殴る前に名乗ります!?」
彩香が即ツッコむ。
「順番むちゃくちゃや!!」
なつめ、即返し。
「順番は現場で覚えます!!」
※覚える気はある。
真帆は内心で思った。
(……これは
制御不能だが
放り込むと場が動くタイプ)
メモにこう書いた。
「神代なつめ:突進担当」
最後に波田顧問が締めた。
「よし。
この子はな、
考えさせるな。
走らせろ」
遥室長、苦笑い。
「……分かりました。
責任は顧問持ちで」
「当たり前だ」
こうして。
お友達紹介キャンペーン適用第2号
高知県出身・神代なつめは、
・面談なし
・書類ほぼ未確認
・声量のみで
戦隊ヒロインの門をくぐった。
そして今日も、
ヒロ室はにぎやかだ。
「みのりちゃぁぁん!!
次どこ走ります!?」
「……右です」
「了解です!!」
走る。
止まらない。
だが――
なぜか現場は前に進んでいる。
勢いだけの女、
意外と使える。
そんな予感を残しつつ、
土佐の突進娘は
今日も元気に、
ヒロ室を揺らしていた。




