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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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354/466

聞いてるだけで世界が平和になる女

森川美里が戦隊ヒロインプロジェクトに正式に馴染んだ、と誰もが認めた瞬間は、

派手なイベントでも、華やかなステージでもなかった。


控室だった。


しかも、コーヒーを紙コップで飲みながら、

「そうなんですねぇ……」

と、相槌を打っていただけの場面である。


最初に吸い寄せられたのは、理世だった。


腕を組み、脚を組み、

「私は別に評価を気にしているわけではありませんが」

と前置きを三回くらい重ねたあと、

延々と自分がいかに正当に評価されていないかを語り出した。


美里は一切遮らない。

否定もしない。

助言もしない。


ただ、

「そうなんですね」

「それは大変でしたね」

「確かに、そう感じますよね」


――それだけ。


二十分後。


理世はふっと息を吐いた。

「……まあ、分かってもらえただけでいいです」


そして、なぜか表情が軽くなっている。


美月が小声で彩香に言った。

「アドバイス一個もしてへんで?」


彩香も首を傾げる。

「せやのに、浄化されとる」


次に捕まったのは沙羅だった。


「私、別に高飛車じゃないと思うんですけど?」

という、誰も聞いていない自己弁護から始まり、

「周りが勝手に誤解してるだけ」

「私だって気遣ってる」

「そもそも私の方が年下なのに」


美里はやはり、何も言わない。


ただ、

「沙羅さん、ちゃんと周り見てますよね」

と一言だけ添えた。


その瞬間、沙羅の肩がストンと落ちた。


「……そうかな」

「……まあ、そうかも」


そしてなぜか、

「また話聞いてください」

と去っていった。


この様子を見ていた遥室長は、

無言で評価メモに丸をつけた。


「この子、吸収してるわね」


実はこの現象、美里だけではなかった。


中洲の人気キャバ嬢だった茉莉花。

熊本の人気バスガイドだった香澄。


三人に共通しているのは、

「話を奪わない」

「正論をぶつけない」

「結論を急がない」


美月はまとめた。

「この三人、アク強いのを中和する装置やな」


香澄は熊本弁で笑う。

「そう言われると、なんか除湿機みたいですねぇ」


茉莉花はグラスを傾けながら、

「文句は出し切ると毒じゃなくなるのよ」


そして、問題の理世と沙羅。


この二人は、

・プライドが高い

・自己評価が高い

・でも評価されていないと思っている

という、扱いが非常に難しい存在だった。


過去には詩織への陰湿ないじめ未遂もあり、

遥室長は内心、警戒していた。


だが、美里が入ってから、

この二人は“爆発しなくなった”。


不満はある。

文句もある。

しかし、それがヒロ室や他のヒロインに向かわない。


全部、美里のところで止まる。


しかも、美里は決して自分の立場を使わない。

年上で、

華やかで、

八頭身で、

並ぶとどう見ても自分たちより「格上」に見えるのに、


腰が低い。


これが効いた。


理世はある日、ぽつりと言った。

「……あの人、嫌味がないのよ」


沙羅も珍しく同意する。

「年上の美人が謙虚だと、文句言いにくい」


結果、二人は少し丸くなった。


美里本人は相変わらず自覚がない。


「私、何かしてます?」

と本気で聞く。


遥室長は笑って答えた。

「してないのが仕事よ」


その日、ヒロ室内で非公式な呼び名が定着した。


――森川美里。

――聞き役担当。

――感情の排水口。


本人はそれを聞いて、

少し困ったように笑った。


「でも、みんながスッキリするなら、いいですよね」


その一言で、

今日もまた一人、

不満を抱えたヒロインが、美里の隣に座る。


そして世界は、

一段だけ静かになる。


派手なのに、目立たない。

何も言わないのに、全部回っている。


お友達紹介キャンペーン適用第1号、

森川美里。


戦隊ヒロインプロジェクト最大の“潤滑油”は、

今日も紙コップのコーヒーを片手に、

静かに相槌を打っていた。

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