並ぶだけでイベント完成――お友達紹介キャンペーン、最初の当たりくじ
ヒロ室に「お友達紹介キャンペーン適用第1号」と書かれた付箋が貼られた日、
その名前の横には、控えめな文字でこう添えられていた。
――森川美里。
千葉県流山市出身、二十四歳。
イベントコンパニオン派遣事務所では、大宮麗奈と同じ年、同じ所属。
この時点で、だいたい察しはつく。
“絵になる人”だ。
実際に二人が並ぶと、空気が一段階明るくなる。
身長、スタイル、姿勢。
八頭身が二体、等間隔で立っているだけで、イベント会場はもう完成形だ。
昼休憩で二人がカフェに入ると、
店内の視線が一斉にそちらへ吸い寄せられる。
「……また見られてる」
美里が小声で言う。
「そりゃ見られるでしょ」
麗奈は当然のように答える。
「私たちだもん」
この自己肯定感の高さが麗奈であり、
それに静かに隣で合わせるのが美里だった。
麗奈が高飛車なら、美里は謙虚。
麗奈が堂々なら、美里は穏やか。
麗奈が「文句を言ってから完璧にこなす」タイプなら、
美里は「何も言わずに全部拾いに行く」タイプ。
コンパニオン歴はまだ短い。
知名度も、指名も、まだ麗奈には及ばない。
だから美里は、断らない。
小規模イベント。
雨天中止寸前の商店街。
客席がまばらな展示会。
「私でよければ、行きます」
その一言が、真帆と遥室長の目に留まった。
面談は、拍子抜けするほど静かだった。
盛らない。
自分を大きく見せない。
できないことは、できないと言う。
彩香がいない回だったこともあり、
地獄にはならなかった。
真帆はメモを閉じ、即決した。
「森川さん。お願いします」
こうして美里は、
お友達紹介キャンペーン第1号合格者となった。
問題は、その“紹介者”である。
大宮麗奈。
ヒロ室から手渡された袋を開けた瞬間、
麗奈は固まった。
中身は二つ。
・麗奈ちゃんプリペイドカード(2000円分)
※なぜかヒロ室にあった上尾中央商栄会製
・戦隊ヒロイン手ぬぐい
※堀井寿葉の実家・堀井商店が作ったが企画倒れした幻の試作品
「……ちょっと待って」
麗奈が真帆を見る。
「これ、粗品?」
「はい」
真帆は即答。
「“粗”すぎない?」
「文字通りです」
「せめて四千円とか……」
「規定です」
麗奈、手ぬぐいを広げて一言。
「これ売る予定なかったやつでしょ」
「はい」
「なんで持ってるの」
「理由は聞かない方がいいです」
美里は横で、必死に笑いをこらえていた。
「ごめんね、麗奈さん……」
「いや、美里は悪くない」
麗奈は肩をすくめる。
「悪いのは、こういうところがヒロ室なだけ」
その日のイベント。
二人が並んで立つと、やはり会場は華やぐ。
麗奈が前に出て空気を作り、
美里が後ろで丁寧に支える。
真帆はそれを見て、ぽつりと言った。
「最初に当たりが出ると、後が大変ですね」
遥室長が苦笑する。
「でも、こういう人が必要なんですよね」
美里はまだ知らない。
自分が“紹介キャンペーンの基準値”になったことを。
そして麗奈は、
手ぬぐいとプリペイドカードをバッグにしまいながら、
こう呟いた。
「……まあ、当たり引いたからいっか」
ヒロ室は今日も、
予算は渋く、人材だけが妙に豪華だった。




