信号無視しなければOK ――ヒロ室式・人材募集要項が雑すぎる件――
新橋ヒロ室。
ホワイトボードの前に、安岡真帆は立っていた。
いつも通り背筋はまっすぐ、
いつも通り笑顔は穏やか。
だが、その手には――赤マジック。
「では、“お友達紹介キャンペーン”の
新入りヒロイン募集要項を発表します」
ヒロインたちがざわつく。
「募集要項って、ちゃんとしたやつ?」
「履歴書いる?」
「写真何枚?」
真帆は淡々と書き始めた。
【戦隊ヒロイン新規募集要項(案)】
・年齢:18歳以上(高校生不可)
「……そこはちゃんとしてるな」
美月がうなずく。
・頭脳明晰
(四則演算と日本語の読み書きができればOK)
「基準低っ!」
彩香が即ツッコむ。
「“明晰”って書いといてそれ!?」
「政治の世界では十分です」
真帆は平然。
・容姿端麗
(女優・モデル級でなくて可。メイクでどうにでもなるのでそれなりでOK)
「夢、壊すなや!」
「後でどうにでもなるって何!?」
遥室長は涼しい顔。
「現場的には正しいですね」
・品行方正
(信号無視しない程度でOK)
「え?」
「それだけ?」
綾乃がはんなり首をかしげる。
「“品行方正”の解釈が
えらいストリート寄りどすな」
「最低ラインが大事です」
真帆は譲らない。
・守秘義務の厳守
(噂話を流さない、知り得た情報を週刊誌に話さない程度でOK)
彩香が腕を組む。
「それ、一番重要なとこやのに
“程度でOK”ってどういうことや」
「“程度”を超えたら排除します」
にこやかな真帆。
一瞬、部屋が静まった。
・特技があれば尚良い
(安来節、南京玉すだれ等、宴会芸レベルで可)
「戦隊ヒロインやんな!?」
「宴会要員募集ちゃうよな!?」
美月が笑い転げる。
「南京玉すだれで怪人倒すん!?」
「状況次第では有効です」
真帆、即答。
・イベント参加、戦闘任務参加時には成功報酬(薄謝)
・交通費支給
・衣装貸与
・国外勤務の可能性あり
・副業可
「国外勤務!?」
「急にスケールでかっ!」
最後に、赤字でこう書かれた。
委細面談
やる気のあるもの来たれ
沈黙。
そして。
「……ざっくりし過ぎやろ!!!」
彩香が叫んだ。
「これ、求人サイトやったら
即ツッコミ入るレベルやで!?」
真帆は振り返り、穏やかに言った。
「だから“紹介制”です」
「え?」
「信頼できる人からの紹介で、
最終判断は面談で行います」
遥室長も頷く。
「あくまで人物重視です」
「でも条件、ガバガバすぎません?」
里奈が恐る恐る。
真帆は一歩前に出た。
「ガバガバだからこそ、嘘が出る」
一同、固まる。
「盛った経歴も、
取り繕った人格も、
面談では必ず破綻します」
「政治の世界では、
“条件を厳しくすると、
条件だけ整えた人間が来る”」
「ヒロインに必要なのは、
書類じゃなくて――素です」
彩香が小さく舌打ちする。
「……腹立つけど、理屈は通っとるな」
美月はニヤニヤ。
「要するに、
“変なやつ来ても真帆さんが切る”
って前提やろ?」
「はい」
即答。
「その役目は、私が引き受けます」
その瞬間、
ヒロインたちは悟った。
――この人、
人を集めるのも、切るのも、
どっちも一流だ。
こうしてヒロ室は、
信号無視しなければOK、
宴会芸があれば尚良し、
国外勤務ありの
史上最も雑で、最も現実的な募集を掲げ、
静かに――
だが確実に、
次なる“戦隊ヒロイン候補”を
世の中から釣り上げ始めたのであった。
なお。
この募集要項を見て
最初に連絡してきたのが誰だったのか。
それは――
また別の、面倒な話である。




