粗品で世界を救え ――ヒロ室、静かに人材戦争へ――
新橋のヒロ室は、今日も平和だった。
いや、書類の山だけが。
「……三段目の箱、これ全部“出演要請”です」
高島里奈が淡々と報告すると、
内田あかねは六法全書を閉じながら頷いた。
「契約書が未添付のものが七件。法的には危険です」
その横で、
安岡真帆はコーヒーを一口飲み、
笑顔のまま言った。
「じゃあ、先に危険度の高い順で潰しましょう」
この人、怖い。
ここ最近の戦隊ヒロインプロジェクトは異常だった。
・地方自治体のイベント
・企業タイアップ
・国の“ぼかした依頼”
・なぜか海外メディア
・そして――悪の秘密結社ジェネラス・リンクの活発化
加えて、
国際テロ組織の動きが東アジア全体でザワついている。
安全保障、緊張感、現場対応。
その全部が、
なぜかヒロ室に集約されていた。
「人が足りません」
遥室長が珍しく即答した。
「足りない、というより……」
里奈が言葉を選ぶ。
「もう“足りない”という次元ではありません」
すでに対策は打っていた。
・里奈とあかねを臨時ヒロインに登用
・真帆自身もイベント現場に立つ
・スタッフ兼ヒロイン総動員
それでも、追いつかない。
そんな中、
真帆は一枚のホワイトボードを見つめていた。
「……ヒロイン、増やすしかないですね」
全員が黙った。
「オーディションですか?」
「今から育成は無理では?」
「人材の目利きが……」
真帆は、ペンを取り、
ボードに大きく書いた。
【お友達紹介キャンペーン】
「……キャンペーン?」
「はい」
真帆はにっこり笑った。
「各ヒロインに、
“戦隊ヒロインに相応しい知人・友人”を紹介してもらいます」
「で?」
「採用された場合、紹介者に粗品進呈」
一瞬の沈黙。
そして。
「粗品ってなんやろ……」
「現金?」
「商品券?」
「ヒロイン限定グッズ?」
ヒロインたちのざわめきが、一気に広がった。
美月が前のめりになる。
「ちょ、真帆さん!
それ、どのレベルの粗品なんですか!?」
真帆は穏やかに微笑む。
「それは……」
一拍置いて、
「“粗品”です」
ざわつき、倍増。
「え、どういう意味?」
「逆に気になるんやけど」
「粗品って、幅広すぎない?」
内田あかねが静かに口を開いた。
「……定義上、“粗品”は
景品表示法において過度な期待を持たせない表現です」
「つまり?」と美月。
「期待しすぎると自己責任です」
「こわっ!」
里奈は小さく笑った。
「でも……人を紹介するのは、ちょっと楽しそうですね」
その一言で、
空気が“前向きな混沌”に変わった。
「私、地元に面白い子います!」
「元同僚で、絶対向いてる人が……」
「この子、戦闘力は低いけどメンタル強いです」
ヒロ室は一気に人材市場になった。
真帆はそれを、
少し離れた場所から眺めていた。
(……政治も、人集めがすべて)
かつて国会議員の秘書として、
地盤・看板・鞄を見てきた。
今は、
ヒロイン・現場・安全保障。
やっていることは同じだ。
「世界が不安定なときほど、
現場を支える“人”が必要」
そう呟いた真帆を、
誰も聞いていなかった。
なぜなら――
「粗品、やっぱりTシャツかな?」
「サイン入り?」
「まさかのタオル?」
ヒロインたちは、
完全に粗品のことで頭がいっぱいだったからだ。
真帆は、にっこり笑った。
(……まあいい)
(期待させて動かすのも、
立派なマネジメント)
こうしてヒロ室は、
静かに、しかし確実に
次の戦いへ向けた人材戦争に突入した。
なお――
その“粗品”の正体については、
この時点では誰も知らない。
ただ一つだけ言えるのは、
ヒロ室らしく、
期待を裏切らない“期待外れ”
であるということだけだった。




