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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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345/458

赤信号、渡るな、空気は読むな ――交通安全イベントで空気を完全に殺した女――

その日は、誰がどう見ても“平和な一日”のはずだった。


 駅前ロータリーに設けられた特設ステージ。

 色とりどりの風船、子どもたちの笑い声、そして大きな横断幕――

《みんなで守ろう交通安全!》


「いい雰囲気ですね」

 舘山みのりは、穏やかに言った。

「こういうイベントは、空気が和らいでいて安心します」


「せやろ?」

 兵庫県警の現役警察官兼戦隊ヒロインの岡本玲奈が、で笑う。

「子どもも多いし、今日は優しくいこ思てるねん」


 二人の間に立っている女が、静かに資料をめくった。


 ――内田あかね。

 鉄仮面。

 法曹界ヒロイン。

 表情筋は沈黙、感情は保留。


「進行を確認します」

「第一部、交通ルールクイズ。

 第二部、模擬横断歩道体験。

 第三部、記念撮影です」


「完璧ですね」

 みのりがうなずく。


 この時点では、誰も地獄を見るとは思っていなかった。


 第一部、クイズコーナー。


「では問題です!」

 みのりが明るく問いかける。

「赤信号。でも車が来ていなかったら、渡ってもいいでしょうか?」


「だめー!」

 子どもたちが元気に答える。


「正解です。よくできました」


 拍手が起こった、その瞬間。


「補足します」


 内田あかね、一歩前へ。


「道路交通法第七条。

 信号機の表示に従う義務があります。

 違反した場合、行政指導の対象となる可能性があります」


 ――空気、死亡。


 子どもたちが黙り込み、

 保護者が「今、条文出た?」という顔になる。


「えっと……」

 みのりが必死に笑顔を保つ。

「今のは、大人向けの説明ですね」


「子どもにも正確な情報を伝えるべきです」


 鉄仮面、微動だにせず。


 第二部、模擬横断歩道。


 岡本玲奈がしゃがみ込み、子ども目線で話す。


「右見て、左見て、もう一回右見てから渡ろな〜」


「はーい!」


 完璧な現場指導。

 警察官として模範的。


「補足します」


 また来た。


「“右・左・右”の順序は法律で定められていません。

 重要なのは安全確認そのものです」


 玲奈、完全停止。


「……あのな」

 神戸訛りが少し強くなる。

「現場では覚えやすさも大事なんよ」


「覚えやすさと正確性は別問題です」


 空気、二度目の死亡。


 みのり、心の中で静かに思う。

(これはもう“イベント”じゃなくて“講義”ですね)


 第三部、記念撮影。


「はい、チーズ!」


「待ってください」


 あかねの声が飛ぶ。


「未成年者の撮影には保護者の同意が必要です。

 同意書は取得していますか?」


 スタッフが凍る。


「……口頭では……」


「不十分です」


 会場、完全氷結。


 沈黙に耐えきれなくなったのは、みのりだった。


「内田さん」

 静かに、しかしはっきり言う。

「今日の目的は、法律を教えることではなく、

 交通安全を“好きになってもらう”ことだと思います」


 あかね、初めて言葉に詰まる。


「……確かに」


「遅いわ!」

 玲奈が即座に突っ込む。

「今気づくとこちゃうやろ!」


 会場、爆笑。

 氷が一気に溶けた。


 イベント後。


「法は人を守るためにある」

 みのりが穏やかに言う。

「でも、人のいない空気で語ると、ただ重たいだけです」


 あかねは、ほんの少しだけ口元を緩めた。


「……勉強になりました」


 その日以降、ヒロ室に新しい内規が追加された。


《交通安全イベントにおける内田あかねの役割:補足係》

※補足は「求められた場合のみ」。


 誰も異議を唱えなかった。


 ――空気もまた、守るべき法益だったのだから。

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