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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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344/457

その握手、合法ですか? ――ファンサービス、条文と感情の板挟み――

事件は、地方都市のショッピングモールで起きた。


 小規模ながら温かい雰囲気のイベント。

 戦隊ヒロインたちはステージを終え、恒例のファンサービスタイムに入ろうとしていた。


「はいはーい! 近づきすぎたらアカンでー!」

 赤嶺美月がいつもの調子で場を回す。


「写真は順番にどすえ〜」

 西園寺綾乃もにこやかだ。


 問題はその後ろ。


 腕を組み、無表情で一歩も動かない女がいた。

 内田あかね。

 鉄仮面。

 六法全書を内蔵したヒロイン。


「……確認します」


 その一言で、空気がピシッと固まった。


「な、何をや?」

 美月が嫌な予感を覚える。


「ファンサービスの内容です」


 あかねは、淡々とメモを取る。


「握手。

 写真撮影。

 子どもへのハイタッチ。

 “名前を呼んでほしい”という要望……」


 顔を上げる。


「これらは、法的にグレーです」


「いきなり重たいな!?」

 美月が叫んだ。


「握手は“身体的接触”です。

 ハイタッチも同様。

 写真撮影は肖像権。

 名前呼びは、継続的関係性の誤認を生む可能性があります」


 会場が、静まり返った。


「……あの」

 スタッフの一人が恐る恐る言う。

「ファンサービスって、そういうものでは……」


「“慣行”と“合法”は別です」


 即答だった。


 その瞬間、後ろから真帆が顔を出した。


「内田さん、今回は地方自治体後援のイベントで――」


「承知しています。

 だからこそ、慎重であるべきです」


「慎重すぎて客が帰りそうやけどな!」


 美月のツッコミが炸裂する。


 そこへ、白石陽菜が小さく手を挙げた。


「あの……

 “笑顔で手を振る”だけなら……合法?」


 あかねは一瞬だけ考えた。


「……接触がなく、対価性がなければ問題ありません」


「よし! 今日は全員、遠距離笑顔な!」

 美月が即決する。


 結果。


 ヒロイン全員が、三メートル離れて手を振るだけのファンサービスが始まった。


「近づかないヒロイン」

「触れられない推し」

「声は届くが距離は遠い」


 会場は、最初こそ困惑したが――


「なんか逆におもろいな」

「近寄らん分、ありがたみあるわ」

「合法って書いたボード持ってるの草」


 謎の盛り上がりを見せ始めた。


 美月はマイクを握り、叫ぶ。


「本日のファンサはな!

 **心は密! 距離は疎!**でお送りしまーす!」


 あかねは、そのフレーズをメモしながら呟いた。


「……“心は密”は、感染症対策文脈と誤認される恐れが――」


「もうええわ!!」


 イベント後、控室。


「なぁあかねさん」

 美月が真剣な顔で言った。

「ファンサって、ホンマに違法なん?」


 あかねは、少しだけ視線を落とした。


「……違法ではありません。

 ただ、“問題が起きたとき”、

 守る人が必要です」


「守る?」


「ファンも。

 ヒロインも。

 プロジェクトも」


 一瞬、空気が和らぐ。


「でもな」

 美月がニヤリとする。

「今日のは、ちょっとやりすぎや」


「反省はしています」


「どのへん?」


「……

 “合法”の文字をうちわにしたのは、不要でした」


 全員、吹き出した。


 その日、ヒロ室のホワイトボードに新しい注意書きが追加された。


《ファンサービスは、愛情と法令のバランスで》


 そしてその下に、誰かが小さく書き足した。


《最終判断:内田あかね》


 誰も消さなかった。

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