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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク
プロローグ

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343/470

感情、条文第◯条により却下されました ――鉄仮面ヒロイン内田あかね、空気を合法的に粉砕する――

その日のヒロ室は、朝から妙に騒がしかった。


 原因は一枚のイベント台本である。


「ここや、ここ!」

 赤嶺美月が台本をバンと机に叩きつけた。

「この“ファンとの距離感を大切に”って一文、抽象的すぎるやろ! 感情はどうしたんや感情は!」


「感情論は舞台では大切どすけど、曖昧すぎるのも問題どすなぁ」

 西園寺綾乃がはんなりと頷く。


「やろ? ここはな、“魂をぶつける”とか“心で繋がる”とか、そういう表現にした方が――」


「待ってください」


 低く、冷たい声が割り込んだ。


 内田あかねである。

 背筋はまっすぐ、表情はいつも通りの鉄仮面。

 六法全書が頭に入っている女は、感情が盛り上がる空気を嗅ぎ取ると、条件反射で止めに入る。


「“魂をぶつける”は、身体的接触を連想させます。

 “心で繋がる”は、誤解を生む表現です。

 スポンサー規約第七条、“誤認を誘う表現の禁止”に抵触する可能性があります」


 一瞬、沈黙。


「……は?」

 美月が目を細めた。


「感情が……規約に引っかかる、やと?」


「はい。引っかかります」


 即答だった。


「ちょ待てや! 感情やで!? 人間の根っこやで!?

 それをリーガルチェックで止めるんか!」


「止めます。必要であれば削除します」


 空気が凍った。


 そこへ綾乃が、静かに助け舟を出す。


「あかねはん、感情というのは、数値化できへんからこそ――」


「論理が飛躍しています」


 バッサリ。


「“数値化できない”と“自由に表現してよい”は同義ではありません」


「……負けましたわ」


 まさかの綾乃敗北である。


 ヒロ室の隅で見ていた安岡真帆が、内心で小さく呟いた。

(この子、感情に銃口向けるタイプや……)


 だが問題はここからだった。


 その日のイベント本番。

 美月はどうしても感情を抑えきれなかった。


「今日はな! ウチら、全力で――」


「赤嶺さん」


 舞台袖から、あかねの低い声。


「“全力で”は問題ありませんが、“命懸けで”は使用不可です」


「言うてへんわ!!」


 だが次の瞬間、美月は勢いで言ってしまった。


「命懸けで、アンタらを笑わせるでー!!」


 会場、拍手喝采。


 その裏で。


「……アウトです」


 あかねは静かにインカムを押した。


「契約違反一件。事後修正が必要です」


「今それ言う!?」

 真帆が思わず叫ぶ。


 控室では、全員が腹を抱えて笑っていた。


「感情が違反て何やねん!」

「私、今日いちばん勉強になったわ」

「“魂”って使えへん言葉やったんやなぁ」


 ただ一人、あかねだけが真顔だった。


「なお、今回の発言は私の判断で“比喩表現”として処理します」


「処理って……」


「感情は否定していません。

 ただ、法の枠内で表現していただきたいだけです」


 陽菜が小声で美紀に囁く。


「ねえ……あかねちゃんって、

 優しいんだよね……たぶん……」


「うん……守り方が特殊なだけで……」


 イベントは無事終了。

 スポンサーからのクレームは一件もなかった。


 美月は帰り際、あかねの肩をポンと叩いた。


「なぁ、あかねさん。

 ウチの感情、今日もギリセーフやった?」


「……今回は、執行猶予です」


「それ、褒めてる?」


「はい。最大限」


 その日、ヒロ室に新しい共通認識が生まれた。


――内田あかねは、感情を殺しに来るが、

結果的に全員を守っている。


 ただし、空気はだいたい死ぬ。


 合法的に。

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